JHF ハンググライディング競技委員会

フライトレポート 2005.05.09、氏家 良彦 記

 

日付:2005.4.17
エリア:大佐山
機体:Moyes Litespeed


平成十七年 四月 十七日、岡山県大佐山より滋賀県大津市まで213km。
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序章(四月 十六日 土曜日)

「松田、山崎バリアの横、降りました。」
松っちゃん、また100kmクラブ入会ならずか。。。
その真上でオーク中野と順調に高度を稼ぐ。

これまで大佐から100kmオーバーのフライトは3回しているがこの辺りで2000オーバーするような好条件は今回が初めて。
従来、私だけではなく多くのクロカン野郎達も、佐用を越えるこの辺りから海風の影響を受け始めて上がりが悪くなり130kmの壁が突破できていない。
でも今日は違う。
この様子なら以前から考えていたプラン、滝野社辺りから海風に流されるのを利用して北へ上がって行き篠山盆地へ抜けるというコースが取れるかも。
そこから以東は岩屋からのクロカンで地形は把握している。

上げ切ってグライドする。またヒット。これは篠山へ行けそうだ。

が、海風様は強力だった。次のヒットがない。
リフトがあってもダラダラ流れる奴ばかり、海風様の勢力圏に入ったようだ。
だが、まだあきらめてはいない。何とか使えそうな奴を引っ掛け、だましだまし滝野社までは行きたい。
が、状況は思った以上に厳しい。
こらえてこらえて滝野社まで距離を延ばすが、I.C.横に降りてしまった。
GPS表示は130km、過去に今嶋さんが飛んだエリア記録も確かこの辺り。限界か。。。

しばらくするとKP瀬戸山さんから連絡が。毎春大佐通いをしている関西ハングバカチームの主要メンバー。
すでに100kmクラブには入会済み、今年はなんとか100マイルクラブ結成を!と意気込んでいる一人。
同じコースを飛んで126km。
お互い感想は同じ、こんな好条件でここまでか。。。

KP三浦さん、オーク松の連絡がまだらしい。
20km地点で三浦さんとは別れ、松にいたってはテイクオフ上空でおいていかれてからまったく見ていない。
先へ行ってるのか?

まず三浦さんから連絡が入る。
「奈義山で2900上がったから男気コースへ行かざるを得なかった。
篠山手前まで135km飛んだ。」距離で負けた。
が、そんなことより、男気コース?ついに行ったか。。。

ひょっとして松も行ったか?
松の情報が入る。
篠山に降りた。
距離は153km!どうやら男気コースらしい。

やっぱりあっちのコースに行かなあかんか。ちょっと気が重い。
でも、道は開けた。禁断の扉は開かれた。
100マイル、そして172kmの日本記録。突破する可能性が現実味を帯びてきた。

「男気コース」、別名「男道」と我々が呼ぶ、奈義山からまっすぐ東へ向かう禁断のルート。
なぜこれまで誰も行かなかったのか。それは、山しかないから。

その夜、KP喜田さんが手配してくれた山頂付近のコテージでKPチームと一緒にビールとポテチとSeeYouの画面を前に本日のフライトを振り返る。いつもの楽しいひと時。
松の詳細な情報はないが三浦さんの話は聞けた。
1人だったので大事に高度をキープして2000を切らずに時間をかけて飛んだとのこと。
この深夜ミーティングで出た結論、明日は奈義山2時集合!

つづく


本編(四月 十七日 日曜日)

「今日も雲底高そうですよ」
松っちゃんのiモードを見つめる目が爛々と輝いている。
WeatherNewsがiモードで展開しているフライヤー向けのサービス、昨日も高い雲底高度予報を出しており、実際その通りであった。
今日も期待できるということか。松っちゃんもついに100kmクラブ入りか?

昨日から大佐では中国選手権が開催されている。
今日2日目は最終日であるためクロカンタスクとするのは運営上困難である。
しかし好条件が期待されるため、なんと、「条件良すぎるからキャンセル、フリーフライトでクロカンして下さい」との発表。う~ん、前代未聞。。。
昨日、テイクオフタイミングが早過ぎてぶっ飛んでしまった今ヤンは今日はいない。
昨日90kmオーバー飛んだが昨晩飲み過ぎて体調不良のKP高波、110kmオーバー飛んだが肩に不安を抱えるオーク中野がフライトキャンセル。
その他にも飛ばないフライヤーがいっぱいいてランチャーの周りはにぎやか。私には理解不能。。。

11:20頃からクロカン野郎達が続々とテイクオフ開始。
11:33テイクオフ、右尾根から上がっていく。途中から北風に流される。
北成分が残っているということは今日も高く上がりそうだ。ちょっとうれしくなってきた。
松が上げきってさっさと出て行く。またおいていかれてしまった。。。
次に三浦さんが出て行った。う~ん、昨日の成績順やな~、実力どおりか?
瀬戸山さんと氏家ほぼ同時にスタート。氏家2400、瀬戸山さん2600。
スタートを切ってみると西成分がしっかりしている。いいじゃないですか!

勝山、久世はいつもどおり、町の南側の山の上を通る。
久世の南側できっちり上げたかったがリフトなし。
いつもならここで上げてから、降りれない谷間を南コースでクリアする。
しかし今日は那岐山へ行かないといけないので、北へずらしていく必要がある。
高度に余裕があるのでこのまま谷を北へ横断。北側の低いところに三浦さん発見、低いなあ。
瀬戸山さんもすでに北へ渡り上げ始めている。1500まで下がってからヒット。
北へ流される。ん、おかしい、どっかで吸われているか?位置をずらして強いのにヒット。
下に瀬戸山さんも来た。ここで2800。よし!那岐山へ向かおう。
途中で上げ直せれば、と思い、山のピークを伝っていくもヒットなく、那岐山から山つながりの爪ヶ城山まで一気に22km、平均対地スピード95km/hでグライド。
1500まで下がったがここで強烈ヒット。しかし強烈というよりは荒れていて上げ切れず2300まで。
ピーク伝いに那岐山到着13:10。2時集合の予定が早すぎた。
まあ早いのはいいことだ。後はここで高い高い雲底に付けることに集中すればいい。
が、しぶかった。(ちなみに12:30にやってきた松はここで上がらず、すでに麓に降りていたらしい。)
(また、ここにはエリアがありパラも飛んでいたが、低い。早く上がってきて一緒にサーマルを探してほしかったが同レベルまでは上がってきてくれなかった。
このときのパラはゼロパラグライダークラブ、あの市川も引率で来ていたらしい。)
東西4kmに及ぶピークを右往左往。そのうち瀬戸山さんがやってきた。2人で右往左往。東を見ると山、山、山。ほんとにあそこに向かっていくの?きっと瀬戸山さんも同じことを思っているはず。
雲はできたり消えたりしているが、何とか雲底レベルまで上げないと。三浦さんと喜田さんがやってきた。
「来た来た、待ちくたびれたよ。決して東へ向かうのをびびってここに留まっていたのではない、集合の約束があったので、待っていただけである」というのが私と瀬戸山さんの公式見解。
4人で右往左往。13:45ついに3200!さあ、男気コース!

北へ目をやれば雪の残った山がたくさんある。しかもすぐそばに。すげーとこ飛んでるわ。
眼下には細い細い谷筋がある。いざという時はあんなところにランディングか。。。
不安なので少しでもリフトがあれば回してみる。なかなかガツンとこない。北にちくさ高原を望む東西に延びた尾根筋でピーク毎に回すがなかなかしっかり上がらない。
バリオの表示は2000を切っていることのほうが多い。
前日、2000を切らなかったと言ってた三浦さん、話が違うじゃないの!
実は大佐のランディングを0に合わせていたので海抜高度では2000をキープしていた。
そんなことまで頭が回らず、とても心細い。でも、4機で上になったり下になったり先に行ったり行かれたり、やっぱり複数機だと心強い。
88km地点、千種町の植松山で私だけ少し北へ入って上げていた時、他の3機は少し南側で上がらなかった。
このとき一番低かった三浦さんがやむを得ず谷筋を南方向へ、他の2機もそれを追いかけていく。私は次のピークへ届く高度があったのでさらに東進。
ここから男道一人旅。まじかよ~。。。
次のリフトに出会わずバリオ表示もどんどん下がる。やっぱり団体行動せなあかんかったか。。。
男気コース最低高度1600、バリオ表示1300切った後、波賀町の東山のピークでヒット、心臓バクバク。復活するも上がり切らない。
よし次だ。生野町に入ったところ段ヶ峰の南で、きた!ガツーン!3000まで。
上を見ると北からやってきた雲が。ここから東は雲がたくさん見える。いくでー!気合が入る。
目線を下げると山の壁、その向こうに山の壁、壁。。頭痛い。。。気を取り直して次の雲を目指す。
ここ生野町は生野銀山で有名、山中にダム湖ありその名も銀山湖(もちろん飛んでる時はそんな地名はまったく知らない)、その上に雲底のはっきりした雲あり。
到達してみると、この雲でっかい。。遠くの方まで覆いつくしている。どっかで強い上げがあるだろうからそれに出会うまでドルフィングライドをすることに。
強い上げに出会わずとも落ちもない。これはしめしめ、かなり距離と時間が稼げた。
24km、L/D25のグライド。とりあえず、雲が切れて日照が見えるところまでグライドしてから上げ直そう、と日照を探してキョロキョロしていると、見慣れた景色が、あっ、岩屋だ。
ガーン、コースが北へ膨らみ過ぎだ。自分ではGPS見ながら東に向かっているつもりなのにえらく北へずれていた。なんといい加減な。。。
よし、気持ちをリセットして今から岩屋からクロカンするつもりになろう。
ここから京都市内まで飛んだ経験もあるし、途中のポイントも難所も心得ている。100マイルまでもう少し!

五台山麓の雲までグライド、そしてヒット。すっかり見慣れた景色。
東を望むと篠山盆地の北、東西にクラウドストリートが見える。
よしあそこまで行けばハイウェイだ。2600まで上げて東へ。
しかし、さっき見た雲たちが少ない。消えたのか流れて行ったのか?
う~ん、残念。春日盆地越えで京ハンのクロカンスペシャリスト湯浅さんがいつも使うというポイントへ、う~ん、リフトない。。
高度は確実になくなってきた。とりあえずランディングを確保するために篠山盆地の北にある尾根筋を越えて盆地へ出よう。
昔、大江山からのクロカンでこの壁を越せずに狭いところに降ろしてグライダーを壊した記憶が頭をかすめる。
ギリギリの高度で盆地側へ出た。が、低い。今回の最低高度、1000を切った。バリオの高度表示は600を切った。いよいよ終わってしまいそうな気配が。
ただ100マイルはほぼ手中に。日本記録は次回か。。すぐそばに以前上げたことのある衣笠山の鉄塔が見える。
そこに行ったからといって上がることが保証されているわけでもないし、どうもその上にはつけそうもない。しかし、なにやらガチャガチャしている。
ローターか?リフトか?探っているうちに何とか上がり出した。
よし、日本記録にチャレンジできる。
1700まで上がった。これをそのまま距離に変えたら記録だ。しかし、この先、降りる所がなくなる。
篠山盆地の東端はゴルフ場が二つあり、そこを高圧線が2本南北に走っている。それを越せないとしばらく戻らないと降りれない。それを越せたら自動的に日本記録が手に入る。
グライドを始めてから、何とか高圧線を越せさせて!お願いお願いお願いお願いお願い!5回唱えてみる。
なんと落ちない。L/D25で滑空できた。おまけに高圧線の手前でヒット。
センタリングが流されているうちに高圧線クリア。2000まで上がった。
よし、日本記録ゲット!やりましたよ、冨原さん!
後は行けるとこまでだ。
目の前には亀岡盆地が拡がっている。その先は一山あって京都市街。
16:30を過ぎていることだし、南東に針路を向けて盆地の端っこまで行こう。
が、落ちない。よし針路変更、まっすぐ東進して、パラのエリアを探ってみよう。
テイクオフへ到着する前にヒット。センタリングしながら飛んでいるパラを探してみると、いた。
めっちゃ高い。しかもめっちゃたくさんいる。よし、上げ直そう。が、センタリングしているパラが見つからない。
2000ぐらいの高さに10機以上いるのにどれも一方向を向いている。どないなってんねん!
結局、パラのテイクオフ上で少し上げ直しただけで東へ。
このパラ達はシェアで上がったらしく、上がり終わってから私がここへ到着したらしい。
残念!1500以上あるので亀岡盆地で終わるのはもったいない。
が、ここから先は京都市街地である。市街に入ってすぐの広沢の池横には過去に降りたことがあるし、今日も休耕田が見える。
愛宕山のレベルがあればあそこには降りれる。愛宕山で1700まで上げれた。
広沢の池は確保。テイクオフ前の雑談が真実味を帯びてきた。
昨日150km飛んで今日は200kmしか眼中にない松が言っていた、大佐から200kmのポイントは京都御所。
ここまで来たらなんとか200km行きたい、でも、街、街、街。市街地に入って低くなったら広沢の池に戻るか。
いやそれなら200に届かない。よし、最悪、鴨川の河原だ。
昔、師匠(京都ハング代表坂本さん)が降りたはず。浅いし鴨川にはまってもよしとしよう。
で、京都市街突入。

空も高層雲が張ってきて太陽が見えない。グライドしながら目を凝らして鴨川の河原を探る。
大きいグランドも探す。あれ、落ちない。
このままなら比叡山に貼り付けそうだ。
昔、洛西エリアから飛んで比叡山にたどり着けず街中の高校のグランドに降りて怒られたことが思い出される。 今回は行けそう。比叡山貼り付いて上がらなかったら?
そのとき考えよう。
宝ヶ池北側1100でリフトに遭遇。やった。
丁寧に上げて1300まで。よし比叡山は越えれる。
ピークの横をスレスレでパス。おおーっ琵琶湖だ。湖岸そばに空いている田んぼがいくつもある。ランディング確保。
あれ、落ちない。ひょっとして琵琶湖越えできる?
目線で5km、高度600。おそらく対岸に届く。でももしショートしたら。。。
せっかくの記録がただの事故になってしまう。かなり逡巡した後、あきらめる。
次回の宿題やな。後は無事にランディングするだけ。17:39問題なくランディング。
6時間と6分。降りた地点でGPSの表示は213。172kmを40km更新。ふーっ、やった。

住宅地のすぐ横のため、人が集まってきた。
すいませんここ何という地名ですか?
大津市下坂本。すぐに回収班に連絡を入れる。
おそらく時間が遅いため山沈の心配もしていることだろう。
うちの奥さんが回収班だが、昨日携帯をトイレ沈させたため、同行しているだろう松っちゃんに連絡。
電話の向こうで家族のやったーっという声が聞こえた。
すぐに気になっていたことを聞く。松はどこまで?まさか琵琶湖越えて行ったか?
「松は12:30に日本原に降りたそうです。」
なるほど早すぎたのか。
その他は?瀬戸山さんが172km。おーっ。男道で分かれた後、ちゃんと生き返ったんや。
とりあえず、今日1番なら記録確定やな。
すぐに冨原さんに連絡したかったが、しまった、携帯の番号メモリーしていない。後で報告しよう。
師匠に連絡。自分以上に喜んでもらえた。すぐに情報が広まり、後はいろんな人から携帯にかかってくるばかり。
瀬戸山さんからも。「どこまで飛んだら気がすむねん。せっかく100マイルクラブ入会できたと思ったら。。。」
確かに目標は100マイルだった。後半落ちない条件で思った以上に延びた。
どこでも降りれるというコースではなかったため集中力が途切れることがなかった。
岩屋からのクロカン、洛西からのクロカン、遅い時間まで飛び続けること、これまでの経験がいろいろつながって、ハング人生の集大成といった感がある。

先に降りているメンバーの情報をもとに回収班も篠山盆地までは来ていたこともあって、思ったより早く20時前に回収される。
回収に付き合ってくれた松っちゃん、ありがとう。
あれ?そういえば松田はどこまで?あっ、しーっ。うちの奥さんが合図をよこす。
どうやら聞いてはいけないことだったらしい。なんと、ランチャーの上で風を選びすぎてぶっ飛んでしまったらしい。
何で目の前で上がってるのに風を選ぶんや。
「もういいんです。ハングやめますから。」
松っちゃん、次は君の番だ!


後日談

松っちゃん、日本選手権初日、デイリートップをゲット!
ちょっとは気持ちも上向きになったことだろう。来年も回収よろしく!