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「2000年事故調査報告」

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 今年に入って起きた2件の同一機種の事故に関し、JHSCとして出来る範囲内で調査を行い、それに基づき分かったことを以下に報告する。

【事故の概要】

No.l
事故日時: 2000年3月12日15:20頃
発生場所: 和歌山県紀ノ川フライトエリア
パイロット A(HG歴10年、JHF:P証)
No.2
事故日時: 2000年5月3日14:15頃
発生場所: 福岡県耳納エリア
パイロット B(HG歴21年、JHF:XC証)

【事故機調査】

No.1
事故機調査
調査結果: 当日は雨天のため屋内での調査しか行えなかったので、機体を広げることは出来なかった。
 
機体製造番号 5886
製造年 1997年
破損個所: 左クロスバー(サイドボルトから内側へ約48cmのところで破断)
  左リーディングエッジ(前方のサイドボルトから約50cmのところ、サイドボルトとダイブステイックの間で破断)ダイブステイック(リーデイングエッジとの接続ピンから6cmのところで破断)
  左ダイブスティック取付け用ボルト(曲がり)
  左ウオッシュアウトリミッター(根元部で破断)
  左リーデイングエッジエンドセール止め(ハトメずるぬけ)
  右リーディングエッジ(前方サイドボルトから約82cmのところ、ダイブスティックよりノーズよりで破断)
  右ダイブスティック取付け用ボルト(わずかに曲がり)
  右ウオッシュアウトリミッター(根元部で破断)
  右リーデイングエッジエンドセール止め(ハトメずるぬけ)
No.2
事故機調査
調査結果: 当該クラブが事故後すみやかに、独自に調査を行っていたため、セールはフレームからはずされ、
  破損個所も検査のためカッターで切断されている状態であった。 
  そのかわりカッターで切断する前の状態の写真を収めたCD‐ROMが作成されている。
破損個所: 左クロスバー(サイドボルトから内側へ約8cmのところで破断)
  左リーデイングエッジ(ダイブスティック取付けボルトからノーズより約18cmのところで破断)
  左リーデイングエッジ・クロスバージョイント金具(曲がり)
  左ウオッシュアウトリミッター(曲がり)
  右リーデイングエッジ(ダイブスティック取付けボルトからノーズより約25cmのところで破断)
  右レーデイングエッジ・クロスバージョイント金具〈曲がり)
  右リーディングエッジエンドセール止め(ハトメずるぬけ)
注意: ダイブスティック角度調節スペーサーは右4枚、左5枚であった。
  1999年11月に当該機体をオーバーホールした業者の話ではこの状態で左右ほぼ同じ角度になっていた。

No.2
事故聞取り調査

調査日時: 2000年7月23目14:00〜16:30
場所: 福岡県耳納クラブハウス
聞取り者: JHSC
被聞取り者: (事故者B)所有技能証HGXC証、経験21年
  事故者は事故の2年7ケ月前に事故機と同型の機体を購入。
  事故のl年4ケ月前に、約50本程度フライト後、売却し、すぐに同型機を新機で購入。
  その後約60〜70本フライト、飛行時間は約70時間。
  その間一度、99年11月あるエリアで機体運搬中ケーブルが切断し、機体がケーブルを支える支柱に激突、オーバーホールをした実績が有る。
  その際残ったのは、セール、クロスバー、ダイブステイツク、ベースバーのみでその他は全部新品に交換。
  機体の調整はCGをいじるぐらいで、ダイブステイックは全くいじっていない。
  事故当日(2000年5月3目)はNNW、3〜4m/s。良いサーマルコンデションで荒れている状況ではなかった。
  フライト中にブローで7m/sぐらい入る程度になったが、フライトしている他のフライヤーも荒れているとは感じていない。
  テイクオフは13:00〜13:30の間。 本人テイクオフの前後にパラグライダーがl機ずつクロカンに出ている。
  テイクオフ後1時間あまり経過したときにテイクオフのまん前、lkmの地点(玉山の真上)、テイクオフより約100m低い位置でサーマルヒット。
  比較的大きな半径の左旋回でセンタリング。約400mゲイン(ランデイングから000m)したところで一瞬(1秒程度)チョットノーズがアッブ。
  本人は何も操作をしなかったが、その後すぐに左前方にノーズダイブ。
  いつものサーマルをはずしたときとおなじと思い様子を見る(ひっくり返ってはいないと本人は言っている)。
  すると急旋回に入り、立てなおそうとしたがとまらず、パラシュートを投げる。
  すぐに開傘。 ツリーランデイングで本人は無事。
【考察】 事故機No.1およびNo.2を調査して分かったことは共に非常に良く似た破壊形式であること。すなわち同じような原因で破壊したと考えられる。
事故機No.1の事故報告書から機体の破壊は機体がひっくり返った後に起きており、機体がひっくり返った時のマイナスGで破壊したと思われる。
従って、事故機No.2の場合も、パイロット本人は自覚していなかったが、機体がひっくり返って、破壊したと見るのが妥当だと思われる。
また、リーディングエッジの破壊した部分を良く見ると、No.1、No.2どちらも左側のほうがねじれによるものと思われる破壊形式が強く出ている。
このことから、先にクロスバーが破壊(共に左のクロスバーが破壊しており、右側は破壊していない)し、
その直後あるいは同時にリーディングエッジが破壊したものと思われる。
機体がひっくり返ると通常、クロスバーには圧縮と曲げ荷重がかかる。 
これに、ウオツシュアウトリミッターを介してのねじりとダイブステイックによる集中曲げがかかることになる。
これらの複雑な荷重が、ひっくり返ったときに衝撃的にかかり、一番弱い部分(No.1ではダイブスティックがあたった個所、
No.2では構造上あるいは製作上最も応力集中し易い個所)が破壊したものと思われる。 
その直後あるいは同時にリーディングエッジが曲げおよびねじり荷重で破壊したと思われる。
右側のリーディングエッジは右クロスバーが破壊しなかったためねじり荷重はある程度おさえられて、主として曲げ荷重により破壊したと思われる。
左右ともに破壊していることから、事故機には少なくもDHV基準の-3G以上の荷重が瞬間的にかかったものと思われる。
以上のことが当該機体の破壊状況の説明であるが、DHVからのメールにもあるように機体がタンブルしてひっくり返れば、破壊するのは普通のことである。
ひっくり返っても壊れない機体を作れば、今回のような事故は防げる訳だが、そうするためには機体をもっと丈夫にする必要があり、
そうすることによって機体の重量が増え、足で離発着出来なくなることにもなりかねない。
それでは何故機体がひっくり返ったのか。 そこが最も重要な点になる。 ひっくり返らなければ今回の事故は起きなかったはずである。
当該事故機のパイロットおよび当該事故機を販売し、乗ったことのあるインストラクターによると、事故機はロール・ピッチともに軽いが不安定と言うことは無い。
従って、特に当該機に特有な安定性能があるとも思えない。
ただ、DHVを初め各国の耐空性基準ではピッチ方向に関しては基準がありピッチ安定の試験をしているが、
ロール方向の基準は無くロール安定は末知の部分である。
従って、ロール安定の確認試験を各種機体で行えば、新たな発見があるかもしれない。 これは、世界的に今後の課題であろう。
また、この2件の事故が起きてから事故機同一機体に関する色々なうわさが出てきたが、
USHGAおよびDHVからの回答によれば、うわさはうわさで事実ではないと言えよう。
しかしながら、当該機体のダイブステイックは角度の調節がパイロットでも簡単に出来るようになっており、
パイロットによっては、高速時のバープレッシヤーを軽くするために、ダイブステイックの角度を下げ、
高速時にノーズを上げるピッチングモーメントを弱くしている者がいるとも聞き及んでいる。
これは耐空性基準を満たした状態からはずれる可能性を意味するわけで、このようなことが出来ないようにするか、
基準を外れる限界を明確に分かるようにしてパイロットに告知(取扱説明書に明記するなどして)しておく必要があると考えられる。


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