茨城県足尾山事故調査
報 告 書
2007年8月28日公表
項 目 パラグライダー飛行中の墜落事故
日 付 2007年6月13日
場 所 茨城県足尾山南東尾根突端付近
機 体 PG:スカイウォーク式 テキーラ型 XSサイズ(21.85u)
 

 

1.事故調査の経過

 

1.1事故の概要

スカイウォーク 式 テキーラ型 XSサイズ(パラグライダー、単座)は、2007年6月13日午後11時00分頃、レジャー飛行のため茨城県足尾山中腹付近のパラグライダー用南テイクオフから離陸し、テイクオフから南東側に延びる通称デコ山上空を飛行中サーマルにあたりセンタリングを開始した。1旋回したあたりでキャノピーがゆすられる感じで片翼の潰れが発生し、ストール、ダイブに入った。潰れた側の翼の回復が出来ぬまま旋回しながら樹上に落下した。その際、広葉樹の枝に左足を激突、左大腿部付け根複雑骨折。左足首骨折の重傷を負った。

1.2事故調査の概要  
事情聴取:
エリア関係者及び目撃者に事故当時の様子を聴収した。気象状況収集その他関係情報収集などをおこなった。

事故機の検証:
2007年6月23−24日 スカイ朝霧(岡委員により)にて事故機の検証をおこなった。
クロスのエアー漏れチェック、ライン長測定を実施。(別紙参照) 2007年7月8日 堂平スカイパークエリア(下山委員により)にてスカイウォーク輸入代理店、佐藤哲氏と共に事故機の検証、エアー漏れチェックと講習斜面にてフライトチェックを実施。(別紙資料、写真参照

検証事項:
テストフライト
2007年8月16日 長野県木崎湖において事故調査委員会専門委員、西ヶ谷委員によりエアー漏れによる影響度の検証フライトを実施。
テストレポート参照
DHVに事故概要の報告及び調査を依頼し受諾された。今後DHV及びスカイウォーク社において詳細な調査、検証が行われる事となった。
2.認定した事実  

2.1飛行の経過  事故機は、2007年6月13日午後11時00分頃、レジャー飛行の目的で茨城県足尾山パラグライダー用南テイクオフ(標高430m)を南の正対風約3mの中を離陸した。離陸後、同機は東斜面に回りこむように左に旋回しながら、テイクオフから南東側に延びる通称デコ山上空を飛行中、サーマルに遭遇し、センタリングを開始したが上昇気流に伴う乱流により片翼の潰れが発生したと思われる。潰れた片翼の回復が出来ぬままストール、ダイブし、ゆっくりと旋回しながら樹上に墜落した。その際、広葉樹の枝に左足を強打し、左大腿部付け根複雑骨折。左足首骨折の重傷を負った。事故後回収されたパラグライダーを点検した際に白色クロスのみが著しく劣化している事に気付いたエリア管理者よりJHF事故調査委員会委員、岡芳樹にクロスの調査依頼がされた。
2.3 機体の損壊に関する情報  
 キャノピー部分 :キャノピーのリーディングエッジ側の横方向に帯状にデザイン配置された32cm幅の白色クロス全体に著しい劣化が確認された。
特に翼の中央部付近の9セルはコーティングが剥げ落ちクロスの気密性は全く認められずポロジメーターでの測定に於いても0秒であった。その他の前後部位のクロス、(黒色、オレンジ)及び下面側クロスは飛行時間から鑑み使用年月相当の劣化状態と判断された。詳細は添付測定データ参照。

  ライン各部   :損傷は認められない。ライン長の測定結果、ノーズがわずかに上がっているが、許容範囲内であり、特に異常は認められない。
  ライザー部 :損傷は認められない。
  

2.4機体に関する情報 パラグライダー  
スカイウォーク 式 テキーラ型 XSサイズ
製造番号:
SGTXSO−2605−13299
製造年月日:
2005年6月
耐空証明等:
DHV1-2取得
総飛行時間:
270時間53分
総発航回数:
401回
飛行重量:
最小60kg 〜 最大80kg
2.5パイロットに関する情報 パラグライダー
性別:男性 1943年1月24日生 64歳 裸体重:60kg
フライヤー登録証番号:
JA48O-114089
技能:
XCパイロット証取得 2007年1月5日
2.6気象に関する情報  
2.6.1事故当時の風向、風速
テイクオフ:南の風3m/s
飛行経路:南の風3m
ランディング:南の風1m〜3m
事故機がテイクオフするときには既に10機ほどがフライトしており、特に怪しい乱気流を思わせる兆候は全くなく、現場付近は晴天で見晴らしが良く飛行には問題の無い状況であった。
3.劣化したクロスに関する考察  
パラグライダーのクロスの劣化状況は使用頻度、使用環境等によって大きな劣化状態の差異を呈するが当該事故機の場合、上面の白色クロス(ポルシェ9017E77A)と他の部位に使用している黒色、オレンジ、下面側の白色クロスとの間に劣化状態に大きな差異を呈している。
事故機のクロスをポロジメータでエアー漏れ状態を測定した結果、リーディングエッジから30cm中側の最大翼厚部付近に配置された幅32cmの白色クロスのみが他のクロスの劣化状態と比較してみると異常値を示している。特に翼中央部の白色クロスは気密性を保持するためのコーティングが剥げ落ち斜め方向への伸びを抑制する効力を失い、伸ばすと伸びっぱなしになり、気密性も全く無い状態である。この白色クロスの劣化状態は中央部のみならず翼端部にまで及んでいた。他の部位のクロスとの差異からしてコーティングに異常があった生産ロットのクロスが事故機に使用されたのではないかと推測される。
スカイウォークの輸入代理店ゲインインターナショナル佐藤哲氏の情報から事故機と同一時期に輸入販売されたグライダーが日本国内に4機ほど販売されており早急に該当生産機種の劣化状態の調査、報告が望まれる。
また、日本ハング・パラグライディング連盟安全性委員会としては該当機種及び同一クロス(ポルシェ9017E77A)、同一生産ロットのクロスを使用したグライダーがあることが想定されるためJHFホームページ内のセーフティーノーツで公表し注意喚起を促し情報収集するべきと判断した。


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