JAPAN HANG&PARAGLIDING FEDERATION
フライヤーサポートデスク・連盟からのお知らせ

ハイパフォーマンス機でのモータパラグライダー飛行への注意喚起

事故報告:2022年末にモーターパラグライダーの死亡事故が発生しています。
事故に至った原因は単純ではなく複数の混在した原因が推測できますが、これまでの常識的な知識とは異なった翼の挙動が大きな原因のうち一つと見られたので後日に使用機材の調査と取り扱い情報の調査の両面で原因を特定して、フライヤーの皆様に情報を把握してもらうと同時に注意喚起することとしました。

状況 晴れ、海風1〜2m/sec の海岸砂浜エリア。他のフライヤーが飛んだ際には安定していた。おそらく事故当時も状況に変化は見られなかった。

事故内容 ハイパフォーマンスパラグライダー(以下:ハイパフォーマンス機)を使用して高度10〜15m付近でハイバンクターンを左右へ連続して行っていた。何度目かのターンから直線飛行に移行した時に片翼が50%程度潰れ、翼は前方へダイブしそのまま放物線を描くように墜落してパイロットは死に至った。

この事故の特徴は複数存在しますが最も驚くことは片翼の潰れから通常では想像するスピンに入る挙動を全くすることなく地面へ向かって墜落したことにあり、これを調査して次に説明する原因を得ました。

説明の前に結論と警告を述べます。
とくに解説2、解説3について難解な説明をしていることは承知していますが、ハイパフォーマンス機はそれらの解説が理解できるほどのレベルで知識と経験がないパイロットが乗ることは非常に高い確率で墜落すると認識してください。
特に解説3については熟知していないパイロットが乗れば死に至る事故が起こってもなんら不思議ではありません。

1.直接的な原因
低高度でのハイバンクターンの繰り返し行為はアクロ飛行であり、高度10〜15mという低高度で最も危険な行為です。

2.翼の潰れを発生させた直接原因についての考察
使用されたパラグライダーの特性を調査してわかったこと
1で説明した行為が最も事故の根本的原因ながら、さらに事故で使用されたハイパフォーマンス機特有の操作方法が実行されていなかったことから潰れが発生し、回復操作を実行するチャンスがないままに墜落に至っている。
ハイパフォーマンス機とは翼面積が概ね20u未満でスタンダードに使用されているモーターパラグライダー用の翼と比較して非常に大きな荷重が翼面積1u当たりに掛かっている。この事故例では16uの翼面積のものが使われていました。

3.潰れ後の回復挙動の特異性
翼面荷重ごとに3種類のポーラーカーブ位置を比較して、ハイパフォーマン機の特有の飛行速度域の特徴とリスクを示します。

2の解説 ハイパフォーマンス機の操作について要注意事項
パラグライダーのトリマーがリリース(全開放)で同時にアクセルフットバーを全開状態でブレークコードを引く操作はしないでください。
この状態でブレークコードを引くことでトレーリングエッジ(後ろ縁)の少し前付近に揚力が発生します。

次の図を参照してください。

fig_aa

トリマーがオープン(全開放)されていてもブレークコード操作を使用していない状態のハイパフォーマンス機は高速で安定します。

fig_bb

翼重心が前方に移動し、翼がつぶれにくくなっています。しかしこのときスロットルの開閉は急激に行うとピッチング現象を誘発し潰れにつながりますのでスムーズな開閉をする必要があります。

トリマーがオープン(全開放)された状態でのブレークコード操作は危険
とくにアクセルフットバーを最大に踏み込んでトリマーを完全に開放状態で飛行する場合は、ウィングチップコントロールラインを使用した操縦を行うことがハイパフォーマンス機の特性であり必須条件です。
わずかなブレークコードの引き込み操作でも (特にアクセルフットバーを最大に踏み込んだ時)、トレーリング エッジの付近で揚力が発生します。
メインとなるリフトポイント(揚力重心)が前方Aライン取付位置からBライン取付位置付近の範囲から後方トレーリングエッジ付近にまで移動し、安定性を失い、リーディングエッジの潰れ(フロントコラップス)または広範囲なサイドコラップスが発生します。

fig_cc

上図のように翼の揚力重心位置が後方に移動し、負の方向への強いピッチモーメントが発生して迎え角が減少し(後ろが上がり、前が下がろうとする)、コラップス(翼の潰れ)につながる可能性があります。

トリマークローズ (全閉)
トリマーを引き込んだ(全閉)状態ではブレークコード操作をすることは特に大きな危険を伴いません。

fig_dd

キャノピーの挙動は、従来のパラグライダーに準じます。

3の解説 潰れた後の翼の挙動について
ポーラーカーブは説明用の任意の図です。
翼が大きく潰れた場合にスピンに入る傾向をイメージしますがハイパフォーマンス機で潰れた場合には翼面荷重が大きすぎて、スピンに入るだけの運動エネルギーを伴った速度域に達していない場合には自然落下が優先するため、その結果ノーズダイブに入ろうとして未だノーズダイブにさえ入る前、またはノーズダイブに入ってクラッシュとなったことが想定されます。
とくに今回取り上げた事故例では連続ターンにより切り返しを行っていることで飛行速度の高速が維持されにくく、さらにハイバンクターンによるロール方向への傾きで翼の投影面積が減少しているためポーラーカーブは赤で図示している位置よりもさらに右下へ、そして潰れによりさらに翼面積が減少していることでまた一段と右下へと移行します。

fig_e


モーターパラグライダー用として売られている小翼面積のハイパフォーマンス機(スモールグライダー)は特殊な速度域に分布するポーラーカーブを持ちます。
例えば翼面荷重が10%増大すると速度は5%増しになります(翼面荷重増の値に対して50%の速度増です)
まるでウィングオーバーのようなハイバンクターンでは翼の傾きが投影面積の減少を起こし、翼面荷重増となりCの位置に移行します。
連続した左右旋回のハイバンクターンでは切り返しの際に適正な飛行高速を維持できていない瞬間を生み出しやすくなります。
グレーで示したエリアまたは黄色で示したエリア内での飛行速度中にDの状態になると翼が飛行を継続できずフリーフォールしてしまいます。

 安全性委員会
 補助動力委員会



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