大事故には至りませんでしたが、ゴールデンウイーク期間中にパラグライダーのタンデムパッセンジャーがチェストベルトもレッグベルトも付け忘れた状態で飛行した、
と言うインシデント情報がJHFに寄せられました。このインシデント(損害は無いか少ないが、確率論的に大事故の芽となる異変例)のレポートを以下に掲載します。
これを読んで、全国のパイロットおよびエリア運営管理者の皆様が、いっそう気を引き締めて安全なフライト活動に努められることを、願います。
この日、現地パラグライダーパイロットの紹介で、2名の女性がパラグライダース クールの体験タンデムフライトに参加申込をした。午前中、あまり正面
からの風が入 らない、飛べないかもしれない条件でスタンバイして、立ち上げを試みるところまで行ったが、飛べずに、お昼頃にフライトをキャンセルして別
れた。その後、他のパイロットが飛べたので、電話で相談して戻ってきてもらい、14時頃に離陸態勢に入っ
た。 このとき離陸地点に他にいた者は、紹介者のパイロットともう1人の申込者の2名
だった。そのパイロットに風を見てもらって順調に離陸したとたん、パッセンジャー の体がずり落ちてきた。パッセンジャーハーネスはTバックル付きのものを使用していたが、パッセンジャーはレッグベルトもチェストベルトもしていなかった。真っ直
ぐ正面へ離陸していたのですぐに対地高度が大きくなっていた。タンデムパイロットは、そこから山肌へ向かって旋回に入れて山林へ不時着して緊急事態に対処すること
が良いとは判断しなかった。 パッセンジャーは、肩ベルトに腕を通しただけの形で、脇の下だけで体が止まり、脇の痛みは訴えるが、精神的には安定していた。タンデムパイロットは穏やかな言葉でパッセンジャーを励ましながら、翼端折で沈下率を高めて正規着陸場付近まで飛んだ。そのまま高度処理で一往復したのち翼端を戻してファイナルターンをして通
常の着地を行なった。風が弱かったので、パッセンジャーは少し走った後、通常の前倒れとなった。
無事に着陸したが、しばらくして、パッセンジャーは強い恐怖を感じて大変に動揺した。パッセンジャーに精神的なダメージを与えたと感じたタンデムパイロットは、ケアに努めた。
このタンデムパイロットは、1999年のタンデム技能証制定時からスクール活動に おいて、体験フライトを主として年間50本以上のタンデムフライトをこなしているとのことだった。
以上がインシデント情報です。 情報を提供していただいた関係者の皆様、ありがとうございました。
さて、ミスが起きないようにシステムを構築し、装備を改良し、人員が訓練を重ねて いく努力が極めて重要であることは言うまでもありませんが、このインシデントは、
それでも人間は失敗を犯すという例と捉えることができます。今回の例では、風の条 件が不順で離陸をやり直すというちょっとしたイレギュラーな要素が発端となり、エ
リア整備・機材装備・パイロットの経験と技能が備わった条件にもかかわらず、致命的なチェックミスが発生しました。
少人数で運営されているフライトエリアや長年にわたって大きな事故の起きていない フライトエリアでも、今回のインシデントを他山の石として、パイロットおよび関係
者相互に安全管理の連携を行い、クロスチェックを徹底するよう、常に心がけて下さい。
例えば、周囲もベテランパイロットだからと油断せずに積極的にクロスチェックをしてあげて下さい。また、ベテランパイロットも積極的にクロスチェックをしてもらう
よう周囲にお願いして下さい。クロスチェックの際は、実際にベルトを引っ張るなど、力をかけても抜けてこないか、多分OKではなく、本当に間違いが無いか、まさに命をかけた真剣なチェックを心がけて下さい。ベテランパイロットであっても単独
離陸を避けるために必ず予備の人員を配置できるよう、車両を離陸地点から下ろす段 取りも工夫しましょう。
安全性を高める努力をできるだけ行なった上で、ヒューマンエラーは発生し得るもの であると言う危機意識を常に高く保つことを忘れないで下さい。それこそが、大事故
の発生を限りなく減少させていく決め手です。 |