静岡県朝霧エリア事故調査
報 告 書
2005年2月1日公表
項 目 ライダーとパラグライダーの衝突事故
日 付 2005年1月2日 12時ごろ
場 所 静岡県富士宮市毛無山
機 体 HG:ウイルスウイング式 タロン型 140サイズ(投影13.00u)
PG:UP式 サミット型 Sサイズ(投影21.50u)
 

 

1.事故調査の経過

 

1.1事故の概要

ウィルスウイング式 タロン型 140サイズ(ハンググライダー、単座)は、2005年1月2日午前11時10分頃、大会での競技飛行のため静岡県富士宮市西富士エリアから離陸し、40分ほど飛行したのち毛無山の尾根先上空を飛行していた。
UP式 サミット型 Sサイズ(パラグライダー、単座)は、2005年1月2日午前11時30分頃、レジャー飛行のため静岡県富士宮市アサギリ高原400mTOから離陸し、30分ほど飛行したのち毛無山中腹を飛行していた。
毛無山山頂の東方向約1.6km地点、海抜高度約1,500m(対地高度200m前後)の空域において、南から北方向へ浅い右旋回を始めたハンググライダーと、ノーズをやや東向きに向けながら、北から南へ飛行していたパラグライダーが、双方の右翼どうしをぶつけるような形で衝突した。
ハンググライダーは激しいスパイラル状態になり、レスキューパラシュートを開傘し山中に不時着。 パラグライダーは右翼に損傷を受けながらも立て直し、傾きながら飛行を続け、エリア指定南サブランディングまで飛行しランディングした。
ハンググライダーパイロットは軽傷、パラグライダーパイロットに負傷はなかった。
ハンググライダーパイロットは二次災害を考慮し回収隊がくるのを待つこととした。回収隊が現地に向うも急斜面と積雪により一歩手前で下山、翌朝に県警ヘリコプターによって救助された。

1.2事故調査の概要  
事情聴取:
エリア関係者及び目撃者に事故当時の様子を聴収した。 事故機の検証:事故機(ハンググライダー)はまだ山中にあり回収できていない。 雪解けを待って回収する予定だが山から降ろせるかどうかは不明。     
※ パラグライダーは未確認(中日PGスクールで保管)
事故機の検証:
検証事項:
2.認定した事実  
2.1飛行の経過  
 ハンググライダーは、「第19回西富士ジャパンクラシック」競技会に参加していた。 2005年1月2日午前11時10分頃、静岡県富士宮市西富士エリアのテイクオフ場(標高1,100m)を南東の風、テイクオフ場は正対風約2〜3mの中を離陸した。 最近のこのエリアとしては平均的なサーマルコンディションであり、特に危険な気象条件ではなかった。
離陸後、同機は西富士のテイクオフ前の上空域で高度を獲得し、大会のタスクであるテイクオフの南にある第一パイロンを通過したあと、北に向かいテイクオフの北北東約4.5Km先にある毛無山頂を経由し第二パイロンを通過した。 再び高度を獲得する為、11時50分ごろ、の毛無山の尾根先(ランディング場との標高差約800m)を飛行。 高度を獲得するために弱いサーマルの中で右旋回をするべく、浅いバンクで低速気味に南から北方向へ飛行していた。
パラグライダーは、2005年1月2日午前11時30分頃、レジャー飛行の目的で静岡県富士宮市アサギリ高原400mのテイクオフ場(標高1,200m)を南の風、テイクオフ場は正対風約2〜4mの中を離陸した。離陸後、同機はアサギリ高原400mのテイクオフ前の上空域を高度獲得し20分の飛行後、毛無山東側中腹方向に飛行した。
飛行経路上では上昇は無く、毛無山中腹のリッジで多少上昇する程度の気流状態の中で上昇しようと、ノーズをやや東向きに向けながら、北から南へ飛行していた。
毛無山頂から、東方向約1.6km地点、海抜高度約1,500m(対地高度200m前後)の空域において、ハンググライダーの右翼とパラグライダーの右翼サスペンションライン上部が向き合うように衝突した。
ハンググライダーパイロットは、パラグライダーが数機飛行しているのを認識していたが、衝突の直前には認識していたPGはやや離れたところを飛行していると感じており、衝突したパラグライダーの存在は衝突するまで気がついていなかった。
パラグライダーパイロットは、衝突直前に前方右側から進行してくるハンググライダーを発見し、接触の危険を感じ左旋回に入ろうとしたが間に合わなかった。
パラグライダーは左翼が前方へシュートしたがすぐに回復した。その後、右翼端が1/3つぶれ、ハーネスが右へ傾いた状態で飛行を続け、南のサブランディング近くへ降りた。パラグライダーパイロットに負傷はなかった。
ハンググライダーは右旋回のスパイラルダイブに入り3周ほど旋回した後、ノーズアップし、その後、ピッチダウンした。ハンググライダーパイロットは操縦不能となり、機体の一部が折れるような音がしたため、レスキューパラシュートを開傘し、ハンググライダーはそのまま山中に不時着した。パイロットは軽傷。
2.2ハンググライダーパイロット救出の経過  
ハンググライダーパイロットは不時着後、無線で大会本部に無事を伝え、パイロットとグライダーの回収の為の、回収隊を要請。 14時30分、有志による18名の回収隊が回収に向かうが、ハンググライダーの不時着場所が標高約1,300mと高く、また険しい山の中だったこと、更に年末からの降雪による積雪が深くあったなどから、ようやく肉声とライトの明かりが確認できる地点まで到達できたものの、回収作業が難航し二次災害も考えられることなどから、17時25分に回収を断念し、パイロットに救助隊を要請する旨を伝えて下山した。 17時27分、警察に通報し救助を要請した。 20時15分に山岳救助隊が救助に向かうが現場には近づけず、23時38分に下山した。 パイロットの無線機のバッテリーが消耗しており、バッテリー温存の為、日没以降、パイロットは無線の電源を切っていた。 翌3日6時40分、パイロットから無事の無線が入る。8時13分、静岡県警のヘリコプターが出動されパイロットは救出される。パイロットに凍傷などはなく不時着時の軽傷のみであった。ハンググライダー本体はまだ回収できていない。
2.3 機体の損壊に関する情報
 
ハンググライダー:

機体が回収されていないため詳細は不明。コントロールバーはアップライト2本とベースバーすべてが折れていた。右リアスパー、またはカーブチップが折れている可能性がある。

パラグライダー:
右翼先端部に生地の裂け、破れが数箇所有り。
ライン各部:
右翼端で4本が破断。 。
ヘルメット:
損傷なし。
ライザー:
損傷なし。
2.3機体に関する情報 ハンググライダー  
型式 ウイルスウイング式 タロン型 140サイズ 37363
製造年月日:
2004年3月
耐空証明等:
HGMA取得(2002年11月24日)
総飛行時間:
約50時間
総発航回数:
約50回
飛行重量:
(吊り下げ重量) 最小63kg 〜 最大99kg
  パラグライダー  
型式 UP式 サミット型 Sサイズ 724
製造年月日:
2002年
耐空証明等:
DHV2取得
総飛行時間:
100時間
総発航回数:
200回
飛行重量:
最小59kg 〜 最大79kg
2.5パイロットに関する情報 ハンググライダー
性別:男性 年齢:30歳 裸体重:65kg
技能:
クロスカントリーパイロット技能証
飛行経験9年、年間飛行時間は100 〜 200時間
  パラグライダー
性別:男性 年齢:57歳 裸体重:60kg
技能:
クロスカントリーパイロット技能証
飛行経歴は5年、年間飛行時間は30時間。
2.6気象に関する情報  
2.6.1事故当時の風向、風速 ハンググライダー
テイクオフ:南東の風2〜3m/s
飛行経路:南東の風2〜3m/s
ランディング:不明
事故発生時間帯前後にわたり同空域に於いて事故機を含め複数機が飛行していた。いずれのパイロットからも急激な風向、風速の変化、突風等による飛行の障害となる状況は証言されていない。
  パラグライダー
テイクオフ:南の風2〜4m/s
飛行経路: 南の風2〜5m/s
ランディング:南の風2〜4m/s
事故発生時間帯前後にわたり同空域に於いて事故機を含め複数機が飛行していた。風向、風速は安定していた。
3.考えられる原因  

ハンググライダーパイロットは同空域にHG3〜4機、PG1〜2機が飛行しているのを認識していたが、衝突の直前には認識していたPGはやや離れたところを飛行していると感じており、衝突したPGの存在は衝突するまで気がついていなかった。

パラグライダーパイロットは同空域にHG8〜10機、PG3〜4機が飛行しているのを認識していたが、衝突直前(30m〜50m)にハンググライダーに気がついたが避けきれなかった。

ハンググライダーパイロットは競技に集中しながら飛行しており、パラグライダーパイロットは空撮(ヘルメットにビデオカメラを搭載して撮影)をしながら飛行していた。また、HG大会開催者は競技がスタートしたことを当該PGエリア管理者に通報しておらず、且つ、当該PGエリア管理者も先般来の降雪により、HG大会が中止になったと思い込みフライト者に注意を促していなかった。従ってパラグライダーパイロットは、飛行空域に多くのハンググライダーが飛行してくる可能性を知り得ていなかった。よって、ハンググライダーパイロットおよびパラグライダーパイロット双方とも、他機警戒意識が不足していたことが事故の原因と思われる。

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