項 目 |
ハンググライダー着陸時の事故 |
日 付 |
2004年5月3日 |
場 所 |
岩手県遠野市遠野フライトエリア(山谷川) |
機 体 |
イカロ2000式 ラミナール 14ST型 |
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1.事故調査の経過 |
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1.1事故の概要 |
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イカロ2000式ラミナール 14 ST型(ハンググライダー、単座)は、2004年5月3日、レジャー飛行のため遠野市の山谷川牧場(標高約800m)から離陸し、約4km離れた着陸地点の猿ケ石川河川敷までの飛行を開始。エリアのメインランディング場である猿ケ石川河川敷に着陸する際にクラッシュしたものと思われる。後続のパイロットが発見し病院に収容されたが外傷性くも膜下出血で死亡した。
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1.2事故調査の概要 |
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事情聴取:
エリア関係者及び目撃者に事故当時の様子を聴収した。 気象状況収集その他関係情報収集などをおこなった。
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事故機の検証:
2004年6月9日 |
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検証事項:
機体の損傷状況の調査、目撃証言に基づき着陸進入コース及び激突地点の現地調査を行った。
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2.認定した事実 |
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2.1飛行の経過 |
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事故機の飛行経路の詳細は、搭乗していたパイロットが死亡しているため不明である。
しかし、事故機の飛行経路は、同時間帯に飛行していた他のパイロット(後に第一発見者となる)とほぼ同一の空域、経路を飛行していた。
第一発見者の報告や目撃証言から、事故機の飛行経過は次のように推定される。
事故機は、2004年5月3日10時45分頃レジャー飛行の目的で遠野市の山谷川牧場(標高約800m)を南西の正対風約2〜3m/sの中を離陸した。約4km離れた着陸地点の猿ケ石川河川敷までの飛行を開始。天候は曇りであった。
十分な高度でランディング場に到達。西風の場合の一般的な高度処理である日影橋脇でS字飛行を行い、そのままランディングへ滑空したが、立ち木に左翼端をかすり、滑空しながらも西向きで牧草地にボディランディングをした。
グライダーは反時計回りに180度半転し東向きになっていた。事故直後に駆けつけた第一発見者が呼びかけてもパイロットは鼻から出血しており、すでに意識がない状態であった。
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2.2機体の損壊に関する情報 |
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スパー:
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損傷は認められない。 |
キール:
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損傷は認められない。 |
クロスバー:
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損傷は認められない。 |
アップライト:
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左右2本共、外側方向に曲げ応力が掛かり中間部で破断している。 |
ベースバー:
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若干の歪程度の曲がりが確認される。 |
ハーネス:
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左右にかぎ裂き状の損傷。 |
計器類:
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バリオ、GPSの損傷は認められない。(GPSデータは取得不可) |
ヘルメット:
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チンガード及び前頭部陥没破損。亀裂が複数箇所認められる。 |
ハーネス:
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救出時に左側肩ベルトを切断。その他、特に異常は認められない。
レスキューコンテナ取り付けベルトが10cm強、延長した改造がされていたがプローン姿勢から起き上がることを難しくするような点は発見できなかった。
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2.3機体に関する情報 |
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型式:
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イカロ2000式 ラミナール 14 ST型
6539 |
製造年月日:
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1999年?月 |
耐空証明等:
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DHV3取得 |
総飛行時間:
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不明 |
総発航回数:
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不明 |
飛行重量:
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最小105kg〜最大134kg(機体重量
34kg)DHVホームページのデーターによる |
2.4パイロットに関する情報 |
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男性 年齢:41歳 裸体重:自称100kg |
技能:
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ハンググライダーパイロット技能証
1987年9月8日交付
パラグライダーXCパイロット技能証 1998年8月10日交付
飛行経歴は本人が死亡したため不明であるが、学生時代からハングググライダーをはじめ、社会人となり、岩手ハンググライダークラブに所属し、フライト環境には馴染んでいた。近年はパラグライダーでのフライトが主で事故のフライトはハンググライダーでの約3年ぶりのフライトであった。また、近年体重が増え、ハーネスもきつくなったため緩くなるようにショップに改造を頼んだり、飛行重量
が運用限界を超えていることを仲間のパイロットに漏らしていた。 |
2.5気象に関する情報 |
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2.5.1事故当時の風向、風速 |
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テイクオフ:南西の風2〜3m/s
飛行経路:西の風
ランディング:南西の風1〜2m/s、または東の風
第一発見者の証言より現場付近の風の状況は次のとおりであった。事故発生時間帯前後にわたり同空域に於いて事故機を含め複数機(5名)が飛行、事故発生時は2機が飛行していた。第一発見者からは風向の180度の変化があったと思われる証言がされている。
以下は第一発見者の報告からの抜粋。
・テイクオフは、南西の風(正対風)2〜3m/s。
・飛行経路上にあるパラグライダーのランディング場は東風。
・猿ケ石川付近のサーマルは東に流されていた。(西風)
・事故者は西向きにS字で高度処理を始めた。(西風)
・ほぼ同時にランディングした第一発見者は東風と感じた。
・事故者がランディングする前の風は南西1〜2m/sとの別な人の証言もある。 |
3.考えられる原因 |
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第一発見者の証言から判断すると、ランディングの際、西風のアプローチを取るが、最終旋回が南側にずれ(あるいは第一発見者がランディング場内北側をランディングアプローチで進入してくるのが目に入って、意識的にずらしたとも考えられる)、ファイナルアプローチが看板の脇をすり抜けるコースになってしまった。その為、看板を飛び越さざるをえなくなり加速してからのフレアーといったオーバーウエイトで風が弱い場合の通
常のランディングパターンが取れなかった。更に風向きが西から東に変わったため、立ち木にかすりながら失速気味(徐々に手が伸びてしまった状態)で牧草地に追い風でハードクラッシュした。風は1〜2m/sと弱く骨折事故に繋がることはあっても死亡事故となる状況ではなかった。
しかしベースバーが接地した際の衝撃(ノーズクラッシュ)で頭部より身体が前方に投げ出されたと同時にノーズプレートが上から叩きつけるように落下。運悪くノーズプレートと前頭部が激突したものと推察される。
使用していたヘルメット(ルービン製)はカーボンケブラーシェルのレーサータイプのヘルメットで緩衝材が6mm発泡ウレタンのみで衝撃吸収効果
は極めて薄いものであった。 |
今回の事故者の状況から:
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1. 3年間のブランクによる操作ミス。(着陸進入コースミス、ランディングフレアのタイミングの遅れ)
2. オーバーウエイト(飛行重量が150kg程度と推察される)によるストール及びニュートラルスピードの増加。
3. 着陸時の風向変化によるフォローランディング。
4. ベースバーが接地した際のノーズクラッシュ(地表面への叩きつけ)と同時にノーズプレートの下側のフライングワイヤー取り付け金具部への前頭部激突。
5. 衝撃吸収効果が極めて薄いヘルメット(ルービン製)の使用。
6. 体重が100kg(装備重量120kg)と重い分だけ衝撃は強くなる。
7. 着陸地点の猿ケ石川河川敷は南西方向に400〜500mの牧草の採取地であり安全に着陸進入出来る環境にありながらも駐車場近くに降ろしたい思いから日影橋と着地場の間の150mの空域で無理なS字高度処理が日常的に行われていた。
以上の要素が重なった為に死亡に至ったものと推察される。 |