栃木県大平山エリア事故調査
報 告 書
2004年6月30日公表
項 目 パラグライダー飛行中の墜落事故
日 付 2004年5月1日
場 所 栃木県下都賀郡大平町西山田 大平スカイクラブエリア
機 体 ウィンドテック式 クウォ−ク27型(投影23.96m2)
 

 

1.事故調査の経過

 

1.1事故の概要

ウィンドテック式 クウォ−ク27型(パラグライダー、単座)は、2004年5月1日 13時13分頃、レジャー飛行のため栃木県下都賀郡大平町西山田の晃石山(てるいしやま)から離陸し、約20分の飛行後ランディング場方向へ飛行した。 ランディング場寸前、高度約20mに於いて左翼の半分位が潰れ直後に墜落した。(13時34分頃)墜落直後は意識もあり救急隊員の質問にも受け答えしていたが3時間後収容された病院で死亡した。

1.2事故調査の概要  
事情聴取:
エリア関係者及び目撃者に事故当時の様子を聴収した。 気象状況収集その他関係情報収集などをおこなった。
事故機の検証:
2004年5月9日
検証事項:
テイクオフ及び墜落地点付近の風の流れ、飛行経路の検証を行った。
2.認定した事実  
2.1飛行の経過  
 事故機の飛行経路は、事故者装備のGPSデータ、テイクオフ場とランディング場にいた他のパイロットが目撃しており以下の空域、経路を飛行していたことが確認された。   
事故機は、2004年5月1日13時13分頃、レジャー飛行の目的で栃木県下都賀郡大平町西山田の大平山のテイクオフ場(標高400m)を東南東の風(左右30度方向変化)約2〜4m/sの中を離陸した。
 離陸後、同機はテイクオフ前の上空域を100mほど高度獲得して飛行後、テイクオフの正面 約1Km先に位置するランディング場(標高43m高度差357m)方向に飛行した。テイクオフ場とランディング場の中間点にあるモノラック乗り場付近上空に於いて上昇気流を捉えて再度高度を獲得しテイクオフ場からみて南東に位 置する尾根の上空100mに達した。その後、南西方向に進路を取り編流飛行で降下しながら山麓にある県道の交差点手前約100mに達した。この間、事故者よりテイクオフに待機しているパイロットに対し「アップダウンが激しく気流が荒れているので、少し待った方がいい」と無線でアドバイスをしていた。県道の交差点の手前より着陸進入のため進路を南東方向に変更し県道を越える。この時の対地高度は約50mであった。そのまま県道と平行に直進しランディング場手前8m、高度20〜30mに於いて左翼の半分くらいが潰れ急激に左に傾く、直後に体重が左に落ち、翼が約60度左に傾き、同時にパイロットは振り子状に右に持ち上げられ左翼端が左サイドからパイロットの下に入り込み、右翼が左90度方向(北を向きながら)シューティングしエアーインテ−クが地面 に激突する状態で墜落した。
 他の目撃証言では潰れた直後機体は旋回せず、瞬時に強烈な下降気流に叩き落され、回復操作の時間も無いくらいに見えた。との報告もある。
 墜落当初、事故者は意識があるもののショック状態で意識が混濁している様子であった。救急隊員との受け答えもしていたが3時間後に収容された病院で死亡した。 両足首関節・骨盤・肋骨骨折、胸部大動脈損傷 (死因は胸部大動脈損傷、出血多量によるショック死)
2.2機体の損壊に関する情報  
キャノピー部分 :
損傷は無い。
ライン各部:
損傷は無い。
ライザー部:
損傷は無い。
ヘルメット:
損傷は無い。
計器類:
DKドラゴン  ガーミンGPS
ハーネス:
UP製MAX17cmムースタイプ、サイドプロテクター無し。
墜落時の汚れ傷等確認されない。
特記事項:
ハーネスのカラビナ幅が54cmと広い状態で固定されていた。
2.3機体に関する情報  
ウィンドテック式 クウォ−ク27型
製造年月日:
不明
耐空証明等:
DHV2取得
総飛行時間:
不明
総発航回数:
不明
飛行重量:
最小85kg〜最大105kg
中古購入品:
購入先 不明
2.4パイロットに関する情報  
性別:男性  年齢:44歳  裸体重:不明
技能:
クロスカントリーパイロット技能証1998年6月23日交付
大平スカイクラブ所属
2.5気象に関する情報  
2.5.1事故当時の風向、風速  
テイクオフ:東南東の風2〜4m/s
飛行経路:東南東の風4〜5m/s
ランディング:南の風2〜4m/s
 事故目撃者の証言より現場付近の風の状況は次のとおりであった。事故発生時間帯は同空域に於いて事故機を含め複数機(1名)が飛行、事故発生時は事故機以外は飛行していなかった。ランディング付近の風向は南、風速約風2〜4m/s。
 同時刻(5分前にランディング)に同空域をフライトしていたパイロットは西向きで対地速度45km/h、上空より視認したクラブハウスの吹流しは南風だったと証言している。
 この事から事故発生時間帯の現場付近の風は、ランディング場東側に位置する中山(標高164m標高差121m)を回りこむ東方向の風と南方向からの風とが合流して乱流地帯になっていたと考えられる。
3.考えられる原因  
3.1 飛行コース要因  事故者にとって当該エリアはホームエリアであり飛行頻度も多くリフト帯、シンク帯、危険地帯等を良く知りえた立場であった。また風向、風速の違いによる着陸進入コースに於いても同様であったと判断できる。飛行中に他のパイロットに飛行空域が荒れている旨を無線連絡し注意をしていることからも飛行には充分注意しなければならない状態であることを事故者も飛行しながら認識していたにも拘わらず着陸進入コースは低高度で電柱、電線が併設されている県道を横断し民家の北側の狭く逃げ場所がない着陸進入コースとなっている。
3.2 地形と風向、風速による要因  墜落地点付近は東南東風だと東側に位 置する中山(標高164m標高差121m)を北から回りこむ東方向からの風と中山から吹き降ろしてくる風、中山を南方向から回りこむ風とが合流して乱流地帯になっていたと考えられる。180m南に位 置するクラブハウスでは南風であった。また当該ランディング場は中山の裾野から200m程度しか離れておらず風向風速にもよるが東〜南東風の場合は中山の風下になり乱流域となる。 このような地形から吹流し(風見)をクラブハウスのみならず東風の流入を知る為にも県道付近や必要な箇所への吹流し(風見)を設置すべきであった。 さらに、ランディング場へは向かい風になるため、ぺネトレーションを上げるために潰れには弱くなるフルグライドあるいはアクセルによって加速していたことも考えられる。
3.3 ハーネス要因  事故者は太り気味であったことからかハーネスのカラビナ間の寸法が広くセッティングされていた。通 常40cm前後であるが当該ハーネスは54cmで固定されていた。 左翼半分くらいが潰れ急激に左に傾く、直後に体重が左に落ち、翼が約60度左に傾いた。いわゆるダイブ、シューティングの要因となったとも考えられる。このようにカラビナ間の距離を通 常より広くセッティングするとパイロットの体重移動にグライダーが敏感に反応するようになり、またグライダーの傾きがそのままハーネスに伝達されるようになる。

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