王子ケ岳事故調査報告書
2003年7月16日公表
項  目 パラグライダー飛行中の墜落事故
日  付 2003年3月30日
場  所 岡山県倉敷市児島唐琴町
1. 事故調査の経過
1.1 事故の概要

アドバンス型シグマ4 27サイズ(パラグライダー、単座)は、2003年3月30日(日曜日)午後13時50分頃、レジャー飛行のため岡山県倉敷市児島唐琴町王子ケ岳から離陸し、30分ほど飛行した。

午後14時20分頃テイクオフ前方70m程の地点(写真−1)で右翼が1/3ほど潰れ、ゆっくりと旋回に入る。その後左右の翼端が交互に潰れ、最終的に回復と同時にシューティングしパイロットは斜面に右胸から岩に激突した。全身打撲による内臓破裂でほぼ即死状態であった。以上の経過は、潰れてから墜落するまで一部始終を目撃したものがいないため、断片的な証言をつなぎ合わせ推察したものである。パイロットはレスキューパラシュートを使用していない。両方のブレークトグルを握った状態で頭を斜面の下側に仰向けで倒れていた。グライダーは本人より斜面上部に開いた状態でインテークが斜面上側、トレーリングエッジが斜面下側で上面を上にした状態で高さ2m程度の灌木に引っかかっていた。
1.2 事故調査の概要
事故機の検証

2003年6月4日

検証事項 エアー漏れ、ライン長測定、目視による外観検査およびテストフライト。
2. 認定した事実
2.1 飛行の経過
当日午前中は風が弱く、全く高度が獲れず、いわゆるぶっ飛び状態。その状態で2本フライトしている。午後13時過ぎから風が少し強まり3m/sから4m/sになり何とかステイできるようになった。3本目に飛び出したころには同空域を8〜9機ほどがソアリング(獲得高度テイクオフから50mほど)していた。テイクオフしてから30分ほどソアリングしたところで事故が発生した。
2.2 機材の損壊に関する情報
キャノピー部分 損傷は無い。
ライン各部 損傷は無い。
ライザー部 損傷は無い。
計器類 バリオメータ、GPSは損傷なし。
ヘルメット 損傷は無い。(フルフェース)
ハーネス エアーバッグ取り付けファスナーが破損しておりファスナーが閉められない状態。右アクセルロープの長さ調節金具(プラスティック製)が紛失している。
2.3 機体に関する情報
型   式 アドバンス式 シグマ4 27型
製造番号 #19302
製造年月日 1998年
耐空証明等 AFNORパフォーマンス、およびDHV2取得
総飛行時間 不明
総発航回数 不明
飛行重量 最小80kg〜最大100kg
その他 中古機
2003年6月4日にライン長およびエアー漏れチェックを行ったが、いずれも異常は見られなかった。またテストフライトの結果、特に異常はなかった。片翼潰し(40,50,60%)、フロント潰し、片翼潰しからの反対方向への旋回をテストしたが、いずれも異常は無くAFNORパフォーマンス、DHV2相当であった。
2.4 パイロットに関する情報
パラグライダーパイロット技能証

飛行経歴は本人ログブックによれば事故当日のフライトを除き935本297時間09分。また飛行経験は9年である。
平均して週に1日はフライトに来ている。メインは王子ケ岳、時々県内のエリアにも出かける。
シグマ4に乗り換えるまでにUPソウルで532本フライト。ファーストグライダーはイーデルスペース。シグマ4が3機目となる。
2002年12月23日中古で購入。事故当日までに12本フライト、累積飛行時間3時間53分(長いもので1本1時間15分)。
2002年12月28日(右翼1/3)と29日(左翼)にそれぞれ1回計2回テイクオフ時に潰れを経験している。いずれも事なきを得たが、本人は少々不安があることを夫人に話しており、潰れを経験してからは条件の良いときにシグマ4に乗り、条件の厳しいときには以前のソウルに乗るといったように機体を使い分けていた。

2.5 気象に関する情報
2.5.1 事故当時の風向、風速
テイクオフ 南西  3〜4m
飛行経路 南南西 3〜4m
ランディング 南南西 2〜3m
午前中は風が弱く、サーマルも無く、全く高度を獲れずにランディングする状態であった。午後13時過ぎから少し強まり何とかステイしソアリングが出来る程度になった。空中ではサーマルを感じさせる乱流もなかったので、ほとんど斜面上昇風でのソアリングであった。風向きとしては尾根筋より僅かに西から吹いてくる方向(テイクオフから海を見た場合右から吹いてくる)であった。全体としてかなり安定したコンディションであった。
3 原 因
 事故者はシグマ4に乗り換えてあまり飛行時間がなく機体の特性に慣熟していなかった。また、乗り換える前の機体がソウルでどちらかというとかなり安定性の強いグライダーで、運動性を重視した設計のシグマ4とはかなり飛行特性が異なっている。異常事態に入り、とっさの場合はそれまで慣れたグライダーでのコントロールが往々にして出てしまうもので、恐らくオーバーコントロールになったものと推察される。
シグマ4での潰れや失速の回避動作や回復操作等機体特性に対応する技術が不慣れであったと考えられる。

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