秋田県雄勝郡稲川町国見岳事故調査
報 告 書
2004年6月30日公表
項 目 パラグライダーとハンググライダーの空中衝突による墜落事故
日 付 2003年7月27日
場 所 秋田県雄勝郡稲川町三梨地内
機 体 HG:モイス式ライトスポーツ 4型
PG:ノバ式イクシオン24型
 

 

1.事故調査の経過

 

1.1事故の概要

 2003年7月27日13時30分ごろ、秋田県雄勝郡稲川町三梨地内の上空で、同県内のクラブ、イージーフライヤーズのハンググライダーと、同じく風遊クラブ員のパラグライダーが衝突、ハンググライダーは水田にパラグライダーは休耕田に墜落した。 ハングフライヤーは全身を強く打ち病院に運ばれたが、1時間15分後に外傷性ショックのため死亡した。パラフライヤーは頚椎捻挫の軽症を負った。 2人とも「03秋田県スカイスポーツフェステバルin国見岳」(秋田県ハングパラグライディング連盟主催)の参加者で、事故当時はゲームフライト中であった。国見岳(587.2m)山頂付近の標高560mのテイクオフからパラフライヤーが12時57分に離陸、ハングフライヤーは15分ほど遅い13時12分に飛び立った。パラグライダーは約30分程ソアリング、ハンググライダーも15分程ソアリングを行い、その後約2km離れたランディング場を目指して飛行中、ランディング場から300mほど手前の上空約70〜80m位 の高さで衝突した。 衝突した際にパラグライダーの左翼ライン上部が絡まった状態で両機共にスピンに入る。その後、離れたもののハンググライダーは最終的には垂直に近い角度で落下した。パラグライダーはレスキューパラシュートを投げたが高度不足により開傘しなかった。キャノピー中央部前縁が、翼長の中間辺りまで裂けたが、左右の翼が開き(回復し?)回転しながらハングより遅く落下した。
事故当時、上空には二人の他にハンググライダー6機、パラグライダー1機の計7機が飛行していた。
ハングフライヤーは飛行歴10年以上(P証技能証)。パラフライヤーは飛行歴5年のパイロット(P証技能証)だった。

1.2事故調査の概要  
事情聴取:
エリア関係者及び目撃者に事故当時の様子を聴収した。
気象状況収集その他関係情報収集などをおこなった。
事故当時テイクオフディレクター、目撃者並びに事故当時者、その他数名の証言をもとに調査した。
事故機の検証:
事故機(ハング)2004年6月10日
検証事項:フレーム及びセールの破断箇所の調査。
事故機(パラ)の検証:2004年
検証事項:セール及びラインの破損箇所の調査
事故現場の検証:
2004年6月10日
検証事項:飛行経路及び空中衝突した時の位置関係、墜落地点の調査。
2.認定した事実  
2.1飛行の経過  
 12時57分にパラグライダーの8番目に当事者パラフライヤーがスタート、当事者ハングフライヤーがハンググライダーの18番目で、13時12分にスタートした。パラフライヤーは山際でセンタリングを開始、700メートルくらい高度を上げてしばらくソアリングした後、高度を維持しながら前方西方向へ飛行。高度500m位 でシューティングポイントの陸上競技場上空を通過し、ランディング場がある南方向へ水田上空を飛行しながら高度を下げ始める。
  ハングフライヤーも離陸後、山際で高度を上げ始めるが、800〜900m位上げている集団までは到達し得ず、約20分後に山際から離れ、ランディング場方向へ飛行。その頃(13時30分)にはパラグライダーは全機(11機)が離陸を終了。飛んでいるパラグライダーは当事者パラフライヤーのほかに1機が離陸場上空約700mでソアリングをしているだけで、ほかはすべて着陸しフライトを終えていた。ハンググライダーは22機がスタートして10機が着陸。
  4〜5機が高度を獲得してソアリング中、ほかの4〜5機がまだ山の中腹でサーマルを捉えようとしている最中であった。
  パラグライダーは衝突地点付近上空を北から南方向に進みながら8の字旋回をして高度処理をしていた。その時は、グランドサーマルのためか高度はあまり落ちなかった。
  ほぼ同高度でハンググライダーが、南東から北西方向に直進飛行してきた。両機とも回避行動をとることもなくパラグライダーとハンググライダーが衝突した。
  13時35分頃にはテイクオフからもハングフライヤー、パラフライヤーの両機の衝突が確認された。 当日の競技は、HGは滞空時間のみで、PGは同じ滞空時間と陸上競技場標的への シューティングと着陸精度(自己申告)の複合競技であった。
2.2機体の損壊に関する情報  
ハンググライダー(モイス式ライトスポーツ 4型)の破壊状況 *キールが3本に折損し、ベースバーに変形(歪み)が見られる。
*左コントロールバーが中間で破断している。
*セールは一部に縫合のほつれ(数センチ)が見られるが、全体としては無傷に近い状態である。         
*ノーズ部のスパー接続部のアルミ板が大きく変形し、左右のスパーが上下にズレている。    
*ハーネスや付属携行品に異常は見られないが、多量の泥土が付着している。    
*ヘルメットの顎紐の片側が切断しているが、これは救出時に切断したものかも知れない。
特記事項:02年モデルを新機として02年夏に購入
パラグライダー(ノバ式イクシオン 24型)の破壊状況 *キャノピーの中央部近辺、上面に5箇所(最大約1.7m)、下面 に4箇所(最大約1.6m)の裂け目。その近辺のリブにも裂け目が見られる。    
*左翼のAアッパーライン、センターから3本、右翼のAアッパーラインセンターから1本の計4本が切断されている。   
特記事項:97年モデルを中古機として99年春に購入
2.3機体に関する情報  
ハンググライダー:
型式:モイス 式 ライトスポーツ 4型(マイラー)2785/0502LST4028M  
製造年月日:2002年 
耐空証明等:DHV3 
総飛行時間:10時間程度  
総発航回数:20回程度  
飛行重量:約110kg(体重70kg前後)
飛行重量範囲:110〜127kg
(DHVホームページデーターによる)
2002年7月新機で購入  
パラググライダー:
型式:ノバ 式 イクシオン 24型 8544 
製造年月日:1997年  
耐空証明等:AFNORパフォーマンス、DHV2-3 
総飛行時間:99年4月以降、約25時間  
総発航回数:不明  
飛行重量:約85kg(体重65kg前後)
飛行重量範囲:75〜95kg(DHVホームページデーターによる)
ハーネス等:アエロタクト エキスパート ムースタイプエアバックハーネス
中古機として99年4月購入
2.4パイロットに関する情報  
ハンググライダーパイロット
性別:男性  
年齢:47才   
裸 体 重:約70kg  
飛行重量:約110kg  
フライヤー登録証番号: JA25O- 
P証取得:取得年月:93/7/12 
スクール名:庄内SSC
パラグライダーパイロット
性別:男性  
年齢:50才   
裸 体 重:約65kg  
飛行重量:約85kg  
フライヤー登録証番号: JA25O- 
P証取得 :取得年月 98/12/17
スクール名:大台PGS
2.5気象に関する情報  
2.5.1事故当時の風向、風速  
天気概況:低気圧が三陸沖をゆっくりと北上する。東北地方は太平洋側で昼ごろまで雨が降り日本海側は明け方まで一時雨。
予 報:内陸は北東のち東の風、曇りで朝のうち所により一時雨。 最高気温横手で23度   
降水確率 6〜12時 20% 
12〜18時 10% 
18〜24時 0%     
現地での実況
6:00    
  早朝から山には濃い層雲がかかっていたが、日の出とともに徐々に消えていった。 風はやや強い南東の風が吹いている。西の空は青空が大きく広がってきている。
10:00
  北西から西風1〜2m/s 晴れ、雲が積雲に変わりつつある。
11:00
  天気は晴れ。風は2〜3分おきに正面の西側から5〜6m/sくらいで吹き上げてくる。 おおむね2〜3m/sの微風がおもである。積雲が山頂上空で発達しないまま浮いている。
11:15
  パラグライダーのダミーフライトがスタートする。予想どおりサーマルが発生しており徐々に高度をあげていく。スタート地点から約700m、ほぼ雲低まで到着した。 しかし、ハンググライダーにはまだサーマルが弱く、高度をゲインすることなく10分後にランディングする。山から離れると北西の風がやや強く、南方向へ流しているようだ。南方向へ流していくと上昇はするものの、北へ戻すと大きく高度をロスし上げ直すのに苦労し12時を過ぎるとだんだんサーマルが強くなってきた。
  事故当時(7月27日13時頃)の風向、
風速 テイクオフ:西:1〜2m/s
飛行経路:北西:2〜3m/s
ランディング:西:2〜3m/s
3.考えられる原因  
3-1 空中衝突事故の直接の原因は双方のパイロットが周囲警戒、他機警戒と危険回避行動を怠ったためと考えられる。
3-2 衝突の要因として、パラグライダーパイロットは着陸進入間際にサーマルの発生に伴う乱気流滞に遭遇した。上下動を伴う飛行状態に陥っておりキャノピーが潰されないかとの心配からグライダーの操縦に意識が集中していた状況が伺える。
3-3ハンググライダーパイロットはパラグライダーを認知していたかどうかは不明である。
3-4低高度、同一高度の為、周囲の地形、風景にハンググライダー,パラグライダー双方の機影が溶け込み確認出来ていなかった(ハンググライダーが山から離れ衝突地点へ向かう方角には青屋根の建物が点在しており、パラグライダーの色は青であった)か、あるいは認知していたものの交差出来ると判断し直進したがパラグライダーが乱気流との遭遇により予測する飛行経路をはるかに上回る状態で上昇してきた為に回避出来なかった可能性もある。
3-5ランディング場近辺の風が北西から西向きに変わったため、ランディング脇の道路に沿った電線がアプローチ経路に入り、それに意識を集中して他機警戒がおろそかになった可能性もある。
3-6飛行特性(速度、旋回半径)が違うハンググライダーとパラグライダーに対し同一着地場を使用する場合には危険回避のために充分な配慮が必要であると考えられる。

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