●MPG日本記録更新、須藤彰の挑戦
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8月4日、真夏の陽射しが降り注ぐ四国でモーターパラグライダー(パワードパラグ
ライダー)の無着陸直線距離飛行の日本記録が更新された。愛媛県松山市重信町の重
信町公園グラウンドから、徳島県鳴門市瀬戸町の鳴門カントリークラブまで、168.
46km。この距離を5時間8分で翔破したのは、千葉県の須藤彰さん。新記録樹立
で立ち止まることなく「挑戦」を続けたいと語る須藤さんの眼には、何が映っている
のだろう。
 
◆公式日本記録の更新、おめでとうございます。いきなりですが、なぜ記録に挑戦す
 るのですか。
◇須藤 飛んでいる皆さんに記録飛行のおもしろさを知らせたい、それから社会にス
 カイスポーツをアピールしたいから、ですね。ひとりで楽しむより、みんなで楽し
 みたい。じゃ、記録を作れば、それを超えることをひとつの目標に、皆さん頑張っ
 てくれるんじゃないかな、と思って……最初はそういう気持ちでした。
 実際に動き始めてみたら、けっこうたいへんなんですよね。苦労して準備している
 時に頭に浮かんできたのが、社会にアピールするということ。モーターパラグライ
 ダー(MPG)は、ただ楽しいだけじゃなく、社会にスカイスポーツの素晴らしさ
 を伝える道具でもあるんですよと、飛んでいる皆さんに言いたい、と。
◆自信のほどは?
◇須藤 前回(2000年)146kmの記録を作った時に、燃料を30リットル積
 んで16リットルぐらいしか使わなかったんです。それで約3時間半飛べたんで、
 今回は「もっと行けるな」という確信がありました。しかし机上の計画どおりには
 いかないのが、自然の力のすごいところです。燃料を使い切って5時間以上飛んで、
 168kmで終わっちゃった。計算どおりにうまくいかないことが、つくづくわか
 りました。それだけ自然条件に左右される「飛びもの」なんだと痛感したと同時に、
 条件を考えてどうにかすればもっと距離をのばすチャンスがあるんじゃないかと感
 じました。
◆具体的にはどんな条件が揃えば……
◇須藤 世界記録などを出している人たちに聞くと、追い風を利用した飛行が大半な
 ので、今回もそれを利用しようとしたのですが、あまり風がなくてそれほど助けに
 ならなかった感じです。やはり夏場より冬場の方が、大気密度の濃さ、上空の風向
 きや強さにしても条件がいいし、そのへんをもっとよく勉強して利用すれば、もっ
 と記録をのばせると思います。
◆当然、次も狙うと。
◇須藤 今回の成功に甘んじてはいけないと思うんです。それに、僕が記録に挑戦を
 続けることによって、これをどんどん塗り替えるような新しいチャレンジャーが出
 てきてほしい。それを僕は期待したいですね、皆さんに。
◆地上クルーの支えは心強かったですね。
◇須藤 皆さんの協力があったからできたんだなと本当に実感しています。今回は地
 元の千葉ではなく四国で飛びましたが、同じスカイスポーツを愛好している人にと
 っては、活動している地域が違うとか、関係ないんですね。ひとつの場所に集まれ
 ば皆仲間なんだという意識で、皆さん喜んで手伝ってくれたんです。まるで自分の
 ことのように熱心にやってくれるのがよーくわかったんで、情熱ある人が多いんだ
 なと、すごく嬉しかったですね。
◆たいへんだったことは?
◇須藤 記録を正式なものにするには、決まりにきちんと沿った形にしなければなら
 ないんです。いろいろな手続きもあるし、使用する機材の登録もしないといけない。
 空港関係とのやりとりもある。全部自分で手探り状態でやってみて、本当にたいへ
 んでした。記録飛行のための手順がマニュアル化されていませんから。公式記録の
 ほとんどは海外で出されているんで、公認する航空協会でも慣れていなかったりし
 て。もっと気軽に挑戦できるようにすれば、やってみようという人が増えるでしょ
 う。今回、その道筋を少し作れたかなという気がします。もちろん、記録を狙う方
 がいたら、ノウハウを教えてあげて、協力したいなとも思っています。
◆テレビや新聞などで報道され、かなり社会へのアピールができましたね。
◇須藤 千葉の通信社の方にチラっと話したら、全国規模のニュースになっちゃって。
 そこが全国にニュースを配信していると知らなかったんで、驚きました。ちょうど
 高校野球ぐらいしかニュースがない時だったんで、いいタイミングだったんです。
 報道の反響が思ったより大きかったんで、またビックリ。
 全国から僕の家に「飛んでみたいんだけど教えてもらえませんか」とか「どこでや
 ってるんですか」とか、連絡がたくさん来ました。まさに嬉しい悲鳴というか……
◆記録飛行では、特にどんなことが大切だと感じていますか。
◇須藤 自然条件に大きく左右されるので、気象状況をきちんと把握できるように、
 よく勉強しないと。それから、自分だけで飛ぶのではなく、サポートの人たちの協
 力があってはじめてできることなので、サポート状況も考えて挑戦の場所を設定し
 たり、コースレイアウトを考えたりしないといけませんね。
 ただ「飛びたいからあのへんを飛ぶ」というのは無謀です。安全の確保を第一に考
 え、サポートもしやすい計画を立てるように努めないと。僕が記録を作ったことが
 口火になって、皆さんに広がっていったらいいなと思って、スカイスポーツの動き
 を興味津々で見ているところです。とにかく、もっともっと盛り上がってほしいで
 すよね。
 
須藤彰(すどうあきら)
1990年、教えられる人もいない時代に独学でモーターパラグライディングを習得。
95年、MPGで初の東京湾横断飛行。96年には大島〜平塚間約70kmの洋上横
断飛行に成功。2000年、千葉県で146km飛び無着陸長距離飛行の日本記録を

作る。03年8月、日本記録を更新。JHF補助動力委員会委員。千葉県在住。

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