●公共施設周辺の飛行について      【平成15年7月9日】
                   補助動力委員会担当常任理事/関谷 暢人
 
7月4日原子力発電所施設周辺をエンジン付パラグライダーが飛行したことについて
 
 2003年7月4日に文部科学省からの連絡によりますと、茨城県東海村原子力発
電所の付近をエンジン付パラグライダーで飛行した愛好者がいたようです。
原子力発電所の管理者が事故防止のために所轄である経済産業省に連絡をし、ハング・
パラグライダーの統括団体であるJHFが文部科学省管轄とわかり、ここから連絡が
入った次第です。対応は小生が担当しましたが先方担当者がハング・パラグライダー
のことを知らないため要領を得ず、フライト活動状況を説明するに終わりました。
同じくして原子力発電所の管理者から茨城県県警本部経由で山崎委員長へ連絡が入っ
たようで、山崎委員長があちこちに走り回ったそうです。結果は、JHF会員ではな
く、FLM会員でありクラスU技量認定証所持者で、本人が県警に謝罪に行ったそう
です。尚、7月8日午後2時ごろ文部科学省(坂本様)から上記の事柄についてお礼
の連絡が入りました。今回の一部愛好者による標記飛行で社会に混乱を招いてしまっ
たことは、エンジンが付いている、付いていないとの事に関係なく、ハング・パラグ
ライダーを統括する団体として、今後、このようなことが再発しないよう啓蒙活動を
しなければならないと考えます。
 確かに基本的に我々のハング・パラグライダーの飛行は自由ですが、どこを飛んで
も何をやっても言い訳ではありません。我々は社会のルールを守りながら自由飛行を
楽しまなければなりません。このような意味から我々に関係するルールといえば航空
法が上げられます。30数年前から我々は航空に関わるルールを参考に自主規制を構
築してきました。空中での右側通行も、その一つです。従って、今回のフライトにつ
いて検討する場合に、空を飛ぶもの、すなわち航空界ではどのようになっているかを
確認した上で検討しなければなりません。
 では、当地の航空ルールはどのようになっているのでしょうか?
原子力関係施設上空の飛行については官報に告示されています。
原子力関係施設上空の飛行規制について
(昭和44年7月5日付け空航第263号、運輸省航空局長から航空局長あて)
標記について、航空機による原子力関係施設に対する災害を防止するため、下記のと
おり措置することとしたので、通知する。
1 施設付近の上空の飛行は、できる限り避けさせること。
2 施設付近の上空に係る航空法第81条ただし書の許可は行わないこと。
となっており第81条とは?
航空法第81条(最低安全高度)
航空機は、離陸又は着陸を行う場合を除いて、地上又は水上の人又は物件の安全及び
航空機の安全を考慮して運輸省令で定める高度以下の高度で飛行してはならない。但
し、運輸大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。
関連:航空法第154条
航空法第154条
航空機乗組員が次の各号の一に該当するときは、50万円以下の罰金に処する。
一 第79条の規定に違反して、航空機を離陸させ、又は着陸させたとき。
二 第80条、第81条、第82条第1項若しくは第2項、第82条の2又は第83
条の規定に違反して、航空機を運航したとき。
三以下省略
2 機長以外の航空機乗組員が前項各号の一に該当するときは、行為者を罰する外、
機長に対しても同項の刑に処する。但し、機長以外の航空機乗組員の当該違反行為を
防止するため、相当の注意及び監督が尽くされたことの照明があつたときは、機長に
ついてはこの限りでない。
となっており航空機で当地上空を飛行するよう申請しても完全に認可されないことと
なっています。
また、原子力発電施設側が対処していることに次のようなことがあります。
(経済産業省のホームページより)
原子力施設の安全確保の基本は、人々に放射線による悪影響を及ぼさないことです。
1.原子力発電所の安全確保
 原子力発電所では、基本的に放射性物質を閉じ込める構造とした上で、異常な事態
や事故の発生を防止することはもちろんのこと、仮に発生したとしてもその拡大を防
止するため、複数のレベルに分けた対策を講じています。これを多重防護と呼びます。
 また、原子力発電所の設置に当たっては、現実に起こるとは考えられないような事
態を想定した場合でも周辺の住民の安全が確保されるよう、十分な距離を確保してい
ます。また、地震などの自然災害や火災などの災害に対しても、安全確保ができるよ
う、設置や設計を行います。 (中略)
・異常の発生を防止するための対策(中略)  
・事故への発展を防止するための対策(中略)
・放射性物質の異常な放出を防止する対策〜「冷やす、閉じ込める」(中略)
2.原子力発電所における放射線や放射性物質の管理
 原子力発電所内で発生する放射線は、施設による遮へいなどにより、周辺環境に影
響を与えることはほとんどありません。
 しかしながら、原子力発電所内で発生した放射性物質が外部に放出されると、この
放射性物質から出る放射線により、周辺環境が影響を受けることになります。
 このため、放射性物質の放出について、厳しく管理する必要があります。
・周辺地域に対する放射線管理
・放射線や放射性物質を監視するモニタリング
(以下、略)
 以上のことから原子力発電施設管理者は第三者が無断無許可で近ずいたり侵入など
して、放射能による悪影響を与えないよう自助管理しております。従って、原子力発
電施設周辺をハンググライダーやパラグライダーのみならず、一般航空機が飛行した
場合、施設管理者は関係省庁に連絡を取り、飛行中断又は禁止を促すこととなります。
 参考として当地の茨城県では、1997年にPGのXC競技会において飛行禁止空
域(原子力発電関係施設)に不時着し、関係者に多大なるご迷惑をおかけしたことが
ありました。このようなことから、エンジン付に限らず山飛びも含めたフライトにお
いて、普段フライトしていない地域をフライト(クロスカントリーなど)するときは
予め調査し、社会に迷惑をかけないフライトをしなければなりません。
 最後に、1989年に航空法施行規則の一部が改正され、第209条−3にハング
グライダーとパラグライダーが明記されました。この時に渡辺敏久元会長(故人)が、
航空法の抜粋を全国の愛好家に配布しました。その時の言葉が「我々のハング・パラ
が認められるようになった。しかし、状況次第では規制を受けることもあり得る。規
制を受けないよう自主規制を強化しアクシデントを防止しなければならない」でした。
 飛躍し過ぎた考えになるかもしれませんが、今回のことが発展し原子力発電関係の
公式文書に「ハング・パラの飛行禁止」が明記されるようなことがあれば、他の業界
(例えば自然保護団体が提唱している山岳保護地域など)にも飛び火し、「ハング・
パラの飛行禁止」の文言が現在フライトしているエリアに影響するような施設及び環
境関係機関に広がり、飛行の制限を受ける可能性を秘めていると思います。
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