岩手県一関市室根山事故調査
報 告 書
2005年10月14日公表
項 目 ハンググライダー飛行中の墜落事故
日 付 2005年9月18日
場 所 岩手県一関市室根山
機 体 ウィルスウィング式 クロスカントリー 155型 31697
 

 

1.事故調査の経過

 

1.1事故の概要

9/18 AM11:40頃、PGフライヤー3名フライト後、北西TOよりテイクオフ(山頂は西風)10分程度のフライト後(ソアリングにならない程度のコンディション)3.5km離れたHGランディング場へ向う。HGLD場上空西側を100m位の高度で通過し風下側へ向った。この時、先にランディングしていたPGフライヤーへ無線にて着陸の意思を伝えた。西側を通過していくのはLD場にいたPGフライヤーとLD場北側にて農作業していた2名が確認している。PGフライヤーは急いで自分のキャノピーを片付けていた。約1分後、先の農作業者が振り返って見ると、LDの南東方向やや低いと思える位置でHGを確認、その直後、ほぼ垂直に急降下し、墜落するところを目撃。HGLD場から東南東方向へ50mの田圃の畦道に激突後、約2m離れた下段田圃に落下。その際、頭部は南側にあり、左体部を下に横たわっていた。鼻と口から出血し、意識はなかった。応急処置を行い、救急車にて千厩病院へ搬送、その後一関市の磐井病院へ転送。翌日転送先の病院で14:00頃死亡。脳挫傷、左肩骨折、右大腿部骨折。

1.2事故調査の概要  
 
 

 

 

2.認定した事実 @ 本人所有グライダー(ウィルスウイング社製タロン)は3ヶ月ほど前の6/19に2度のスタ沈にてスパー部分等を破損したが、本人の希望により修理はしていなかった。
A 機体が重いと感じ始めていたので軽いグライダーへの乗り替えを考えていた。
B 当日は、来年新機を買うまでの中継ぎのつもりで、売りに出ていた中古機のクロスカントリー155を試乗し、試乗後購入を考えると話していた。
C 本人は糖尿病に対応して食事と運動療法によって減量していたようで、体も軽く、体調はいたって良好と話していた。事故後、家族の方からの情報によると一時期80kg以上有った体重も約1〜2年で72kgまで減量したとのこと。
D 飛び仲間の話しでは痩せた事でハーネスも緩めになっていた。
E 今年は仕事が忙しくフライト本数も少なかった。事故前は3ヶ月のブランクがあった。 今年は雪解け後、4月に3フライト、5月に3フライト、6月は6/19スタ沈後フライトせず
F クロスカントリーのCG位置は後ろに設定されていた。
G テイクオフからランディング上空100mまでのフライトでは、クロスカントリー機には特に異常な点は見受けられない。
H 10分ほど前にランディングしたPGパイロットによるとランディング場は南西の風で 安定しそれほど荒れてはいなかった。
I 緊急パラシュートは使用せず。
J 事故後入院先で検査した血糖値はかなり高い数値(200以上)であった(家族報告) 3ヶ月前のタロンでの2回連続のスタ沈については、本人は年齢からくる体力の減少により、弱風時に重め機体を支えて走るのが辛くなった為だと話し、軽めの機体に乗り換えることを考えていた。風の弱い夏はフライトを休止すると話していた。
2.1飛行の経過  
 
2.2機体の損壊に関する情報  
右フロントスパー :
ノーズより20cm付近で完全折損
アップライト :
左右中間部全折損(外側向き)
セール部 :
トレーディングエッジ下部(スパー折損部位)縦スリット状裂け3cm程度
ヘルメット:
顎部(チンガード)破損
2.3機体に関する情報  
型式ウィルスウィング 社製 クロスカントリー155 31697
製造年月日:
 
耐空証明等:
 
総飛行時間:
不明
総発航回数:
不明
飛行重量:
最小73kg〜最大90kg
2.4パイロットに関する情報  
性別:男性   年齢:50歳   裸体重:
技能:
ハンググライダーパイロット技能証
2.5気象に関する情報  
2.5.1事故当時の風向、風速  
テイクオフ: 西南西の風3〜5m /s
事故目撃者の証言より現場付近の風の状況は次のとおりであった。事故発生時間帯前後にわたり同空域に於いて事故機を含め複数機(4名)が飛行していた。いずれの証言者からも急激な風向、風速の変化、突風等による飛行の障害となる状況は証言されていない。
3.考えられる原因  
  今回の事故は、墜落地点と目撃者の証言によるその高さから推測すると、8の字旋回にて高度処理中、何らかの原因により右翼端失速を起こし、そのまま約10mの高さからノーズダイブ状態で墜落したものと考えられる。 失速の原因としては、急激な気流の変化に対応が遅れたためと考えられる。
3ヶ月間のブランク、そして以前に乗っていた機体ではあったが慣れない機体であったこと、高性能機と中級機とのグライドの違い、飛行特性の違い、など、これらの要因が複合的に作用し事故が起きたと考えられます。
また、本人のフライト歴(17年1000時間以上フライト)から考えると操作ミスということが考えにくく、急激な体調不良により制御不能となった可能性も捨てきれない。

前のページに戻る