広島県尾道市高圧送電線宙吊り事故調査
報 告 書
2004年6月30日公表
項 目 パラグライダー飛行中の高圧送電線宙吊り事故
日 付 2004年5月26日
場 所 広島県尾道市吉和町の鳴滝山中腹(標高50m)
機 体 ユーピー式 Vクラッシック型 Sサイズ(投影面 積23.80m2)
 

 

1.事故調査の経過

 

1.1事故の概要

事故機のユーピー式 Vクラッシック型 S サイズDHV1-2(パラグライダー、単座)は、2004年 5月26日 13時00分頃、初高々度飛行のため広島県尾道市吉和町の鳴滝山(標高402m)をインストラクターの誘導の基に単独初フライトのために離陸した。その後無線誘導が出来なくなり飛行予定コースをはずれ視界から消える。車で捜索したところJR西日本の高圧送電線(1万6000ボルト、地上約50m)に引っ掛かっているのを発見された。また近くの男性から「パラシュートが電線にひっかかっている」と119番通 報があった。尾道消防署のレスキュー隊員が駆けつけ広島市消防局ヘリコプターにより16時50分頃に救助された。 この事故で送電が自動停止した影響で、JR山陽線の下り線出発信号が赤になり、岡山発三原行き普通 列車(乗客約百人)が約十分遅れた。

1.2事故調査の概要  
事情聴取:
エリア関係者及び目撃者に事故当時の様子を聴収した。 気象状況収集その他関係情報収集などをおこなった。
事故機の検証:
2004年6月12日
検証事項:
ランディング場から飛行コースの目視誘導範囲の確認。
テイクオフ場からの飛行コースの確認。           
高圧送電線宙吊り現場の確認。           
事故時使用していた無線機の周波数ロック状態の確認。
(八重洲無線C-501)
2.認定した事実  
2.1飛行の経過  
 目撃証言から、事故の経過は次のように推定される。
 事故者は今年1月からパラグライダーを習い始めタンデムフライトを5回、週4回ペースで地上訓練を積んだ後、この日、単独フライトに挑戦した。事故機は、2004年 5月26日13時00分頃、初高々度飛行のため広島県尾道市吉和町の鳴滝山(標高402m)山頂のテイクオフ場をテイクオフサポート1名、ランディング場からのインストラクター誘導の基に離陸した。テイクオフ正面 (東南東方向)にあるランディング場(標高50m)に真っ直ぐ向う予定が途中から右方向(南西側)に曲がって行ったので無線誘導により左方向(約150度旋回)に方向転換させた。この時点までは無線交信は可能な状態であった。その後、進路をランディング場北側方向に向けて北東方向にほぼ直進した。ランディング場北側に到達した所で右に曲がるように再度無線誘導をいれるが事故者の反応は無かった。事故者は不安になりながらも何も指示がないのでそのまま直進飛行した。そのため北方向の谷合に入り込みランディング場から視認出来なくなってしまった。事故者は送電線を直前で確認したものの回避できずそのまま衝突し送電線3本にグライダーと共に宙吊りとなった。ランディング場から誘導していたインストラクターは急遽、車で捜索したところJR西日本の高圧送電線(6万6000ボルト、地上高約50m)に引っ掛かっているのを発見した。事故者が宙吊りになっている状態の時に再度無線交信してみたが交信が出来なかった。
  第一発見者は高圧送電線の直下で畑仕事をしていた地元の男性で頭上の高圧線がショートした音に気付き上を見上げて事故機を発見した。この男性により110番通 報された。
 尾道警察、尾道消防署レスキュー隊が救助に当たるも山の中腹の谷合で、宙吊りとなっている高度が50m強あり、地上からでは救助が出来ず事故発生から3時間30分後の16時50分頃、広島市消防局のヘリコプターに乗った航空隊員が事故者を抱きかかえて地上に降ろし救助された。救助後、無線機の周波数を確認した所、チャンネルが変わっていたことが確認された。
2.2機体の損壊に関する情報  
キャノピー部分 :
送電線とのショートにより直径15cm程度の焼損部が2箇所。
ライン各部:
救助の際に切断した模様。
ライザー部:
救助の際に切断した模様。
計器類:
装備していない。
ヘルメット:
損傷は無い。
その他:
機体はJR西日本福山で送電線より回収後すでに廃棄されていた。
2.3機体に関する情報  
型式  ユーピー式Vクラッシック型
(Sサイズ投影面積 23.80m2)
製造年月日:
不明
耐空証明等:
DHV1-2取得
総飛行時間:
不明
総発航回数:
不明
飛行重量:
最小70kg〜最大90kg
そ の 他:
事故機は同スクールより中古機を購入。
2.4パイロットに関する情報  
性別:女性 年齢:23歳 
技能:
尾道パラポートスクールA級課程教習生
2.5気象に関する情報  
2.5.1事故当時の風向、風速  
テイクオフ:南東の風2〜3m/s
飛行経路:南東の風2〜3m/s
ランディング:南の風1〜2m/s
 当日は快晴で安定した風であった。初高々度飛行にも問題ない3m/s程の安定した風が吹いていた。いずれの目撃証言者からも急激な風向、風速の変化、突風等による飛行の障害となる状況は証言されていない。
3.考えられる原因  
   事故調査をして得られた情報から、今回の事故は無線機が出発前の点検、及び飛行の途中までは正常に受信していたことから左旋回の操作をした時に交信のチャンネルが変わってしまった可能性が考えられる。そのため無線誘導の指示が聞こえず機体の操作も出来ないままに滑空し南東風によって谷合に流されて高圧送電線に衝突、宙吊りとなった。
  事故者はタンデムフライトを5回経験していたが単独では初フライトであった。
  事故時に使用した無線機を確認したところロック操作しても上部にあるダイアルノブを回すと周波数が変化しチャンネルはロックされなかった。そのほかのプッシュボタンによる操作はロックされていた。同エリアに於いて過去にも同様に飛行中に周波数が変わってしまったことが2回発生していたことがあった。当該無線機(八重洲無線C-501)の周波数ロックの仕様を確認したところ周波数ロック中でもセレクター操作が出来るようになる機能があることが判明した。(取り扱い説明書23ページに記載)
  無線機の初期設定状態では周波数ロック機能が働いていたものが誤操作によってセレクター操作が出来るように設定されているのを気づかず使用していたと言える。
  無線機の仕様、機能、操作方法に熟知していなかったことが当該事故の原因である。

前のページに戻る