猪の頭事故調査報告
2003年11月19日公表
項 目 パラグライダー飛行中の墜落事故
日 付 2003年8月10日
場 所 静岡県富士宮市猪の頭
機 体 DAE KYO式EDEL PROMISE M型
1.事故調査の経過

 

1.1事故の概要

 DAE KYO型EDEL PROMISE M(パラグライダー、単座)は、2003年8月10日(日曜日)11時03分頃、レジャー飛行のため静岡県富士宮市猪の頭から離陸し、10数秒後に右急旋回し270度回ったあたりでテイクオフ場に墜落した。足首骨折と打撲程度と見られ、本人も救急車を呼ばなくても良いと言ったぐらいであったが、念のため救急車を手配。墜落から30分ほどで救急車が到着し、応急処置後病院へ搬送された。病院へ収容されてから1時間ほどで容態が急変し、死亡に至る。
 両足首、肋骨骨折による外傷性ショック死と診断された。

1.2事故調査の概要
現地調査:
  2003年8月12日 事情聴取:目撃者から事故当時の様子を聴収した。また、気象状況収集、その他関係情報収集などを行った。テイクオフを撮影している定点ビデオに事故発生時の映像が撮影されていたので、ビデオ解析も合わせて行った。
2.認定した事実  
2.1飛行の経過  
 事故機は2003年8月10日レジャー飛行の目的で、11時03分頃スカイ朝霧猪の頭テイクオフ場より離陸する。事故者は離陸に先立って一度テイクオフの失敗をしている。離陸時には既にテイクオフ場のある前山上空で20数機がソアリングしていた。そのほとんどがスカイ朝霧猪の頭 テイクオフ場より北側上空域に滞空しており、事故機がテイクオフしてから墜落するまで、事故機の近辺には他の機体はいなかった。
 事故機は離陸後、風に合わせるようにブレークを当てながら(最小沈下でリフトを最大限受ける操作)斜面 から離れるように東方向へ飛行。離陸後10数秒後に右に急旋回し、そのままスカイ朝霧猪の頭テイクオフ場の南の端に墜落した。
 ランディング場から事故を目撃した人によれば、機体は潰れが無く完全に開いた状態で右急旋回をした。なお、事故後も同空域を飛行していたパイロット達からは、特に気流の乱れや風向風速の変化を感じたとの情報はない。
2.2機材の損壊に関する情報  
キャノピー部分:損傷の報告はない。
ライン各部:損傷の報告はない。
ライザー部:損傷の報告はない。
計器類:損傷の報告はない。
ヘルメット:擦り傷が認められる。
ハーネス:損傷の報告はない。
特記事項:特になし。
2.3機体に関する情報  
型式:DAE KYO式 EDEL PROMISE M型
製造番号:不明
製造年月日:不明
耐空証明等:AFNORスタンダードおよび DHV2取得
総飛行時間:不明
総発航回数:不明
飛行重量:最小80kg〜最大100kg
2.4パイロットに関する情報  
 男性。58歳。パイロット技能証(1992年5月22日交付)。飛行経験16年(ハンググライディングを含む。ハンググライダーパイロット技能証は1989年11月24日に交付)。飛行重量 92kg。
2.5気象に関する情報  
2.5.1事故当時の風向、風速  
 テイクオフ場:南東 3〜4m/s 飛行経路:南東 3〜4m/s ランディング場:南東 2〜3m/s
 西側の尾根上空レベルでは、少し西寄りの風が吹いていた。
3.考えられる原因  
 事故者はどちらかと言うとかなり低速気味でフライトする傾向が強く、当日もテイクオフを見ていた人によれば、離陸後ハーフブレークぐらいブレーク操作をしながら斜面 から離れていった。しばらくまっすぐ出たところで左側のリフトにあたり、センタリングをしようとして右に急旋回をした(ローカルルールにより当日は偶数日のため前山では旋回方向が右に指定されていた。また、事故直後事故者の救助をした人に事故者は「やっぱり、左旋回だったかな。」ともらしている。)が、サーマルから外れシンクに遭遇したことと、斜面 が近かったため、さらに右側のブレークを引き込んで斜面をかわそうとしたが、低速でフライトしていたために失速気味となり、そのままテイクオフ場に墜落したものと思われる。
 旋回をするのに充分な高度の余裕、山肌からの距離が確保されていない、また右旋回をすればシンク帯に入り込むことは容易に判断されるにも拘わらず、事故者が無理な右旋回操作をしたことが事故の原因と言える。

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