平尾台事故調査報告
2003年11月19日公表
項 目 パラグライダー飛行中の墜落事故
日 付 2003年8月3日
場 所 福岡県京都郡苅田町山口平尾台
機 体 オゾン式オクターン型 Sサイズ(投影翼面 積21.52)
1.事故調査の経過
1_1事故の概要

 オゾン式オクターン型Sサイズ(パラグライダー、単座)は、2003年8月3日12時30分頃、レジャー飛行のため福岡県平尾台から離陸し、20〜30分飛行した後、ランディング場上空へ向かった。対地高度は500m以上あったと思われる。高度処理のためのスパイラルを始め、3旋回ほどでかなり深いスパイラルダイブ状態になり、そのまま民家の屋根に激突した。
 収容された病院で死亡した。

1_2 事故調査の概要
  事情聴取:
  エリア関係者及び目撃者に事故当時の様子を聴収した。また、気象状況収集その他関係情報収集などを行った。 事故機の検証:2003年10月15日 検証事項:破断ラインの確認、交換。目視による外観検査およびテストフライト。
2.認定した事実

 

2_1飛行の経過

 事故機の飛行経路の詳細は、居謔オていたパイロットが死亡しているため不明である。しかし、事故機は同時間帯に飛行していた他のパイロットとほぼ同一の空域、経路を飛行していたものと推定される。
 目撃証言から、事故機の飛行経過は次のように推定される。
 事故機は、2003年8月3日12時30分頃、レジャー飛行の目的で、標高590mの福岡県平尾台のテイクオフ場から、北東の風(左45度方向)、テイクオフ場は正対風0〜2mの中を離陸した。
 山際は曇りで平野部は晴れ。雲底はテイクオフ場から+300mで、山際は所により雲の吸い上げ状態にあった。
 離陸後、同機は平尾台のテイクオフ場前の上空域を、高度獲得し20〜30分飛行。その後、テイクオフ場の正面 約2km先に位置するランディング場(標高60m、高度差530m)方向に飛行した。
 飛行経路上では、所により雲の吸い上げによるリフトがあり、容易に高度を獲得することが出来る状態で、多少上下する程度の気流状態の中、ランディング場を目指して飛行した。
 ランディング場上空に到達した時には対地高度は500m以上であった。その後ランディング場上空で高度処理のためのスパイラル旋回を始め、3旋回ほどでかなり深いスパイラルダイブ状態(キャノピーが真下を向く状態)になり、スパイラルを継続したままの状態で民家の屋根に激突した。  事故者は墜落直後には意識があり、救急隊員に自分の氏名を告げていたが、15時24分に収容された病院で死亡した。
 事故者は緊急パラシュートを装備していたが、使用操作をしたかどうかは不明。

2.2機体の損壊に関する情報  
キャノピー部分:損傷は認められない。
ライン各部:左翼Bボトムラインセンターから2本目(BR2)、左翼Cボトムライン全部(CR1,CR2,CR3)、左翼Dボトムライン外側(DR2)、右翼Dボトムライン外側(DR2)および左翼ブレークラインボトム真ん中(KML2)の計7本が破断。
ライザー部:損傷は認められない。
計器類:損傷。作動はしているものの機能障害を示す。
ヘルメット:不明。
特記事項:2階建て民家の1階屋根部分を損壊。
2.3機体に関する情報  
型式:オゾン式オクターン型 Sサイズ
製造番号:OS-B-35-025#R
製造年月日:2000年8月
耐空証明等:DHV2取得
総飛行時間:不明
総発航回数:不明
飛行重量:最小65kg〜最大85kg
その他:2003年10月15日、岡委員(テストパイロット:斉藤)に於いて破断していたラインの交換を行い、スカイ朝霧エリアでテストフライトを行う。また、同月17日、下山委員(テストパイロット:高田)に於いて堂平スカイパークエリアでテストフライトを行う。結果 、特に異常は認められなかった。
[テストフライト項目]
  片翼潰し(50%)、フロント潰し、深いローリング旋回、ウイングオーバー、スパイラル等のフライトテストをしたが、いずれも異常は無く、AFNORパフォーマンス、DHV2相当であった。
2.4パイロットに関する情報  
 女性、46歳。クロスカントリーパイロット技能証(1995年1月1日交付)。飛行経験15年。飛行経歴は本人が死亡したため不明であるが、年間飛行時間は30〜50時間と、所属クラブ員の中では多く飛行していた。
2.5気象に関する情報  
2.5.1事故当時の風向、風速  
 テイクオフ場:東 0〜2m/s
飛行経路:北東 0〜2m/s
ランディング場:北東 0〜2m/s  
  事故目撃者の証言より、現場付近の風の状況は次のとおりであった。事故発生時間帯前後にわたり、同空域に於いて事故機を含め複数機(7名)が飛行、事故発生時は2機が飛行していた。いずれの目撃証言者からも、急激な風向、風速の変化、突風等による飛行の障害となる状況は証言されていない。
3.考えられる原因  
 事故調査をして得られた情報から、今回の事故は、対地高度が500m以上あったので練習のつもりで入れたスパイラルが、上昇風の中だったため、スパイラル初期段階は余り降下しなかったが、上昇風を抜けた瞬間に深いスパイラルダイブに移行してしまった。(事故発生の直前にスパイラル降下した他のパイロットが同様の状態を体験している。)  この時点で、機速の増加と強い遠心力のためにパニックに陥ったか、ブラックアウト状態となり意識の喪失を招いていたのではないかと思われる。情報では事故者はスパイラルの経験が無く、また適切なリカバリー操作も習得していなかったことが事故の原因として考えられる。

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